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【埼玉】

<見て学んで楽しむ 彩の国 産業観光> (3)草加煎餅 丸草一福(草加市)

せんべいへのこだわりを語る高橋恒夫社長(左)と長男の元一さん=草加市青柳の丸草一福本店で

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 ♪おせんべい焼けたかな−。少女が小声で口ずさむ。有名な手遊び歌の一節は、生地を返すタイミングにほどよく合う。

 熱せられた網の上のせんべい生地。最初は薄くてとても堅い。何度もひっくり返すうちに、少しずつ膨らみ茶色を帯びる。香ばしい香りが周囲に漂い始めた。

 言わずと知れた草加市の名物「草加せんべい」。一九六一年創業の草加煎餅丸草一福(せんべいまるそういちふく)は、市内に約五十軒ある製造所や販売所の中でも老舗。昔ながらの手焼き体験が人気を呼び、工場見学には年間七千人が訪れる。

 「せんべいを好きになってほしいんだ。玄米から作っているこだわりを見てほしい」。社長の高橋恒夫さん(69)は言う。

 見学は、米袋の山を見るところから始まる。ここでは来訪者はほとんど足を止めない。だが全ての工程の意味は、この米の味をいかに生かすかに集約される。

草加せんべいの手焼き体験を楽しむ参加者たち=草加市青柳の丸草一福本店で

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 精米してから製粉。蒸した米粉を機械でつき、のし機で丸く型抜きする。蒸気乾燥機で乾かした後に焼き作業へ移る。

 工場の二階。十メートル超の焼き機の上を、せんべい生地が流れていく。熱せられた鉄網は自動で起き上がり、何度も生地を裏返す。約七分間に五十回。手焼きの味を再現するための特殊な機械だ。

 熱効率は悪く、時間もかかる。大量生産には向かない。「あえて無駄な方法でやっている。手焼きのように焼いた方がうまいのは、先輩たちが昔から気が付いていたから」。高橋さんの言葉に、伝統を受け継ぐ誇りがにじむ。

 見学の後の手焼き体験は、そんな「無駄」が生み出す味を体感する場だ。

何度もひっくり返しながら焼くうちに、生地は少しずつ膨らんで色が変わっていく=草加市青柳の丸草一福本店で

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 焼きたてのせんべいにしょうゆを塗り、口に入れる。まだ温かい焼きたては、販売品ほど堅くない。乾燥させていないので、表面はしっとり。歯に力を入れるとパリッと音がして、米のうま味が口の中に広がる。

 東京都足立区から四歳の息子と訪れた川井悠美さん(40)は「ここのおせんべいは私が小さいころから食べている。この子も楽しんだみたい」と笑みを見せる。体験を目当てに遠く新潟県見附市から来た桶谷香さん(42)も「焼きたてはサクサクでおいしい」と満喫した様子だ。

 「今はおせんべいをただ売ってても売れないから」。案内役を務めた高橋さんの長男元一さん(29)は、見学や体験の意義を語る。

 高橋さんも時代の変化は感じる。「最近はふわふわのスナック菓子ばかり」。だからこそ伝統の味を大切にしたい。「おまえたちの世代がせんべいの良さを子どもたちに教えないと」。父の言葉に、元一さんは照れくさそうにうなずいた。 (井上峻輔)

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<草加煎餅丸草一福> 草加市青柳2の16の18。工場見学と手焼き体験は、月−土曜(祝日、繁忙期を除く)の午前10時からと午後1時半から。参加費は1人540円。要予約。予約と問い合わせは電0120(037)129へ。

 

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