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【埼玉】

<ひと物語>「千年残る手紙」開発 和雑貨店代表・塚田敬子さん

千年残せるレターセットを開発した塚田敬子さん=さいたま市北区で

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 手紙の力を知ったのは、あの日の火事がきっかけだった。

 二〇一五年十一月三日の朝。和雑貨販売店「つくりえ」代表の塚田敬子さん(39)は、知り合いのカフェオーナーからの電話に慌てて家を飛び出した。

 「店が燃えている」−。

 さいたま市北区盆栽町に半年前にオープンしたばかりの小さな店。夫と十年以上前から温めていた夢だった。

 その店が火に包まれていた。風が強い日。近所で出火し、延焼した。消火作業をぼうぜんと見ていることしかできなかった。

 店は全焼し、商品もほとんどがだめになった。ようやく営業が軌道に乗り出したところだったのに。気持ちは沈み、どうしたら良いか分からなかった。

 そんなとき、普段はめったに来ない手紙が届いた。連日、何通も何通も。差出人は雑貨職人や常連客、近所の人たち。「頑張って」「また店ができるのを期待している」…。

 それまでは、仕事でもプライベートでも使うのは電子メールばかり。手書きの文字が温かく、うれしかった。

 「これだ、手紙だ」。火事の前から考えていた自分なりの新商品を、レターセットにしようと決めた。新しい店は当分開けない。開発の時間はたっぷりある。

 素材を探すうちに、小川町で生産される「細川紙」に行き着いた。国連教育科学文化機関(ユネスコ)無形文化遺産にも登録された和紙。薄くて丈夫で、光沢がある。一般の紙が百年程度で劣化するのに対し、千年たっても文字が読めるとされることにもひかれた。

 ある逸話も背中を押した。江戸時代、商家では火災になると帳簿を井戸に投げ入れてから避難したという。和紙に墨で書いた帳簿は、一度ぬれても乾かせば読むことができる。

 「自分の火事の経験と重なった。いつまでも読める特別な手紙がつくれる」。新商品のテーマ「千年残せる手紙」が固まってきた。

 完成したレターセットの商品名は「恋文」。細川紙を巻物状にして、筆ペンと便箋と一緒に桐(きり)箱に収めた。昨年四月から、知人の店やイベント会場においてもらった。

 「特にシニアの男性に受けがいい。エンディングノートに使う人もいるみたい」。手書きの文字から生まれる人と人とのつながり。「恋文」に託した思いは、多くの人に受け入れられているようだ。

 昨年十一月三日。念願の新しい店舗ができた。火事からちょうど二年。場所は同じ盆栽町。再開には五年はかかると思っていたが、周囲に支えられた。「地元の人に愛される場所にしていきたいですね」。大切に保管しているあの時の手紙の山を見ながら言った。 (井上峻輔)

 <つかだ・けいこ> 1978年、茨城県生まれ。美容師勤務などを経て、2014年にさいたま市で合同会社「つくりえ」創業。店舗はさいたま市北区盆栽町153の5。月・水・金曜に開店。「恋文」は1万5000円(税抜き)。ホームページでも販売中。問い合わせは塚田さん=電080(5090)8675=へ。

 

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