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【埼玉】

重度障害の尾ケ井さん 初の個展 川越市立美術館市民ギャラリー18日まで

「楽しみにしていた個展が開けてうれしい」という尾ケ井さん=川越市で

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 毛呂山町の重症心身障害児・者施設「光の家療育センター」に入所している尾ケ井(おがい)保秋さん(61)が、20年間にわたり描いてきたアクリル画など27点を集めた初の個展「母へ」を川越市立美術館市民ギャラリーで開いている。タイトルには、9歳で死別した母親に見てほしいとの気持ちを込めた。18日まで。 (中里宏)

 尾ケ井さんは手足が不自由で言葉を自由に話すことができない。十二歳で光の家に入所。一九九七年に開設された光の家絵画教室に四十一歳で参加した。

 週一回の絵画教室で、キャンバスの前に座る。絵画指導員の長倉陽一さん(32)が見せる色見本から色を選んでパレットに乗せてもらい、左手で持った絵筆を体全体でキャンバスに押しつけるようにして描く。ときには指を使うこともある。

 ひとつの作品を完成させるのに五カ月かかる。「ひと筆描いてやめるときもあれば、疲れよりも楽しさが上回って描き続けるときもある。悩みながら描いているところは、私も絵描きとして共通するものを感じる」と長倉さんは言う。

 光の家センター長の丸木和子さんは「自分の気持ちを人に伝えるのが難しい尾ケ井さんにとって、キャンバスに向かっている時間が癒やしになっていると思う。絵は自分を支える大きな存在なのでは」と話す。尾ケ井さんは昨年十二月に行われた光の家五十周年記念行事に入所者代表として「絵を描く時間をつくってくれたことがありがたかった」との気持ちを示したという。

 個展会場に詰めている埼玉医大非常勤講師の塩田敬さん(70)は研修医時代から四十年以上にわたり、光の家に関わり続けてきた。「才能を閉じ込められた人間が、道が開けたときにどうなるか。見る見るうちに進化が始まりますよ」と熱く語る。長倉さんは「尾ケ井さんの作風は、新しくなるほど明るくなっている。すごく力強い半面、優しさも感じさせる」という。

 最新作は個展のタイトルにもなった「ひまわり〜母へ」。丸木さんは「ヒマワリ一輪を描くものと思っていたら二輪だった。聞いてみると『左が自分で右がお母さん』と言うのです。お母さんは尾ケ井さんを大事に育てていたと聞いているので、施設に入ってからさびしかったと思う」と尾ケ井さんの気持ちを察し、「お母さんに今の自分を見てもらいたいという思いが分かったので、個展のタイトルに決めました」と話す。個展の初日、展示会場で尾ケ井さんは涙を流した。

 

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