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【埼玉】

<ひと物語>異業種経て野菜のプロ 榎本農園・榎本房枝さん

温室内で育てるミニトマトの前で笑顔を見せる榎本さん=さいたま市西区で

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 温室内に足を踏み入れると、実を付けた色とりどりのミニトマトが目に入る。数は二十種類以上。「作り始めたころは注目されようと必死でした」。みずみずしい輝きを確かめると、さいたま榎本農園で販売や広報を担当する榎本房枝さん(47)は笑顔で振り返った。

 江戸時代から四百年続く農家の長女として生まれ、二〇一二年から弟の健司さん(40)と農園を営む。父親の代から有機農法を取り入れ、主力のミニトマトに加えて作る露地野菜は約二百種類。こちらは野菜ソムリエの資格を持つ榎本さんが主に栽培し、商品のネット販売にも取り組む。

 普通の野菜は作らない。ダイコンでも中身が紫色や皮が赤色といった珍しい品種ばかりだ。売り先は百貨店や都内のレストランが多いという。「料理人の経験があるので、料理人が欲しがるものを提案できるのが強み」。そう言って胸を張る姿は「野菜のプロ」そのものだ。

 もともと農業に興味はなかった。ホテルで料理人として働き、極めるため二十代後半で一年間、欧州二十カ国をバックパッカーで食べ歩きの旅をした。その後に働いたリゾートホテルで支配人を務めた経験も。料理とサービスの世界で磨かれた感性が今の仕事に役立っている。

 亡くなった父親の後を継いだが、最初は苦難の連続だった。父親の信頼で成り立っていた取引先をすべて失ったため、一から販路を開拓。消費者の好みに合わせて大玉トマトからすべてミニトマトに転換するなど工夫した。多品種の珍しさが少しずつバイヤーの目に留まり、今の土台が築かれていった。

 売り上げを伸ばす一方で、小学校の食育授業などにも積極的に参加。野菜ソムリエとして啓発活動に力を入れる。「家庭での野菜の消費量は少なくなっている。ちょっとでも興味を持って食べてほしい」。ブログを通じた野菜の魅力発信にも情熱を傾ける。

 女性農業者の活躍を推進する農林水産省の「農業女子プロジェクト」に一四年から参加。仲間と女性が運転しやすいトラクターの開発に携わるなど活動の幅を広げながら女性農業者の地位向上に尽力する。

 「まだまだ農業は男の世界で女性が虐げられている部分が多い。もっと女性が農業に参加しやすい環境づくりができれば若い世代が頑張れるし、新規参入も増えると期待している」

 就農前に広い世界を見てきた榎本さんだからこそ、重みのある言葉だった。(藤原哲也)

 <えのもと・ふさえ> 1971年、さいたま市西区生まれ。高校時代から食の専門分野を勉強し、調理師として10年働く。2012年から弟の健司さんと実家の農園を経営。敷地内で農家レストラン「菜七色(なないろ)」も運営し、野菜をふんだんに使った料理を提供する。問い合わせは菜七色=電090(3310)7716=へ。

 

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