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【埼玉】

90歳「星の王子さま」新訳 さいたま市の翻訳家・芹生一さん

「新訳星の王子さま」を刊行した芹生さん=さいたま市南区で

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 初版出版から75周年を迎える、フランスの作家サンテグジュペリの代表作「星の王子さま」の新訳本が今年、出版された。訳したのは、さいたま市に住む翻訳家で成蹊大名誉教授の芹生一(せりうはじめ)(本名・島原健三)さん(90)。80代で初訳、90歳で全面的に改訂し「新訳 星の王子さま」(阿部出版)として刊行した。新訳はリズム感のある心地よい文章で、新たなファンを開拓しそうだ。 (田口透)

 小学四年の時、ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」に出会って衝撃を受け、学生時代はシュールレアリスムの絵画や、作家稲垣足穂の作品などに傾倒した。一方、慶応大工学部で応用化学を専攻し、成蹊大工学部教授を長年務めるなど「化学者」としての顔も持つ。

 二十代のころ「サルトルを原文で読みたい」と外国語学校などに通い、仏語を習得。同人誌に小説や詩も発表した。文学仲間の勧めで「星の王子さま」の原本を購入したのが一九六〇年。「一読し引き込まれた」

 「大学の研究に興味はあったが、小説家の道も真剣に考えていた」というが、ひょんな事から翻訳家の道に足を踏み入れる。「七八年に学会のため訪れた英国で『アリス』の人気を再発見、土産話で知人に話したところ、その紹介で訳してみないかと誘われた」。児童図書大手の偕成社から「ふしぎの国のアリス」「鏡の国のアリス」などを相次ぎ刊行した。

 大学を退任後も海外の大学で化学史などの講座を持っていたが、若いころに読んだ「星の王子さま」を自分なりに訳したいと思い立ち、二〇〇九年、「星から来た王子」(海苑社)を刊行した。当時は小学校高学年向けに翻訳した。原文を何度も繰り返し読む中で「新たに気付くことも多く」、「新訳」として書き直した。

 原文は朗読に適したリズム感あふれた文体で書かれており、翻訳に際しても、その点を重視した。「読者から『新訳』で初めて魅力を理解できたと言われ、翻訳家としてとてもうれしかった」と話す。

 九十歳の島原さん。今後は若いころに書いた小説を手直しし、出版するのが夢。大学の数学教師でアリスを書いたキャロル、パイロットで作家として活躍したサンテグジュペリ同様、化学者であり翻訳家の島原さん。

 「若い世代をはじめ、さまざまな人に読んでほしい。新たな気付きがあると思います」と話す。千四百円(税別)。問い合わせは阿部出版=電03(3715)2036=へ。

 

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