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【埼玉】

命の大切さ胸に 節目の個展 福島出身の人形作家 伊原軌子さん

ふるさと福島の復興を願い「創作きもの人形展」を開催する伊原さん=さいたま市見沼区で

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 東日本大震災で被災したふるさと福島への思いを込め、創作を続けるさいたま市見沼区の人形作家伊原軌子(のりこ)さん(63)の「創作きもの人形展」が九日から、市内で始まる。独学で人形制作を始めて二十年、初の個展開催から十年の節目を迎える今年、自らも大病を乗り越え、改めて「命」の大切さを胸に、新作を含めて五十体の人形を展示する。(田口透)

 福島県いわき市平地区出身。福島大を卒業、大宮市(現さいたま市)の市立中学校で約三十年間、国語教諭を務めた。

 勤務の傍ら、着物好きが高じて一九九八年、手探りで人形制作を始め、二〇〇八年に初の個展を開く。母親の介護などで早期退職、その後、母の死、自らの乳がん手術など大事が重なった翌年の一一年、大震災が起きた。半年後に地元を訪れ、津波の被害を受けた市内の姿に言葉を失った。

 「病後ですぐには支援できなかったが、3・11は戦争ではないか、なぜ原発はふるさとを苦しめるのかとの思いも強かった」。震災後の個展は毎回、ふるさと復興の思いを込め、集まった義援金を福島に贈っている。

 八回目となる今回の個展を準備中の今年四月、突然の病に襲われた。四〇度近い高熱、グラブのように膨れ上がった両手。激痛に「死ぬのではないか」と思った。敗血症と診断されて治療の結果、九死に一生を得たが、現在も後遺症で左手には力が入らない。しかし、退院後一週間で人形制作を再開した。

 「大病して『命』について初めて実感した。昨日は当たり前にできたことができなくなる。平穏無事のありがたさ。改めてふるさとの事を考えた。何を大事にすべきなのか。原発はどうなるのか。震災を風化させていいのか。そして自分は何をすべきなのか」

 今回の個展のテーマ「願の糸」は七夕の異称。「星への願い」に、もちろんふるさとへの思いを込めた。

 「故郷に行くたび、市街地と津波被災地との復興の落差、住民同士のあつれきなども実感する。一方で、記憶は時間に押し流される。何ができるのか分からないが、人として一番大事なものは何か。(個展を通じて)問い掛けていきたい」

 創作きもの人形展「願の糸 いのちとかたち8(ローマ数字の8)」は九〜十五日午前十時〜午後五時、「氷川の杜文化館」(さいたま市大宮区高鼻町二)。期間中の十四、十五の両日、午後二時から福島応援チャリティーとして紙芝居、詩の朗読も開催する。問い合わせは伊原さん=電048(687)1606=へ。

 

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