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【埼玉】

精神障害者の強制入院 議論が活発化 医療の防犯利用、懸念

「相模原事件はなぜ起きたのか」を出版した井原教授

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 多くの刑事事件に鑑定医として関わった独協医科大埼玉医療センター(越谷市)の井原裕教授(精神医学)が、著書「相模原事件はなぜ起きたのか」(批評社)を出版した。相模原市の障害者施設殺傷事件を機に、精神障害者を強制的に入院させる措置入院を巡る議論が活発化したが、井原教授は精神医療が犯罪防止に利用されることを懸念。司法による歯止めが必要と訴えている。

 殺人罪などで起訴された植松聖被告(28)は事件前、障害者殺害を示唆する言動を繰り返して措置入院させられ、医師の判断で、十日ほどで退院していた。井原教授は「なぜこんな危険な人物を野放しにしたのかとの批判が集まり、精神障害者がスケープゴートにされた。措置入院は治療のための制度で、医師に治安維持の責任を負わせるのはおかしい」と話す。

 事件後、厚生労働省の検討チームは「退院後の支援が不十分だった」として、自治体が全患者の支援計画をまとめるよう提言。精神保健福祉法の改正も目指したが、障害者団体は「監視強化につながる」などと反発、昨年廃案となった。

 井原教授は「措置入院には、医師と自治体の判断だけで患者を拘束できる危険な側面がある」と強調。「強化の方向に動けば、『逮捕状なき逮捕』がまかり通ることになり、大多数の善良な患者に不安を与えることになる」と指摘する。

 著書では、統合失調症患者が書いた支離滅裂な文章を例に、精神疾患と、ヘイト(憎悪)の思想を含む思い込みとの違いについても説明。「プロの医師でも判断を誤ることはある」として、措置入院の決定や解除に裁判所が介入し、現在は定めのない入院期間についても期限を設けるべきだと提案する。

 偏った考えに基づいた凶行をどう防ぐのか。「事件は刑事政策と精神保健福祉法のはざまで起きた。医者にできるのは病気を治すことで、退院後、危険な考えを持った人物を警察に引き継ぐ仕組みがないことも問題。司法もブレーキ役として関与し、三者の連携を密にしていくしかない」

<相模原障害者施設殺傷事件> 2016年7月26日未明、津久井やまゆり園で入所者の男女19人が刃物で刺されて死亡、職員2人を含む26人が重軽傷を負った。元職員植松聖被告(28)が17年2月、殺人罪などで起訴された。横浜地検は5カ月間の鑑定留置で、完全責任能力が問えると判断。被告は16年2月、障害者殺害を示唆する言動を繰り返して措置入院となり、翌3月に退院したが、相模原市などは退院後の住所を把握せず、対応が不十分との指摘も出た。被告は逮捕後も障害者を差別する主張を続けている。現在、弁護側の請求による精神鑑定中。

 

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