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【生活図鑑】

民法改正議論(No.385) 労働者が守られない恐れも

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 民法(債権法)改正のための議論が進んでいます。法制審議会では中間報告をまとめ、さらに個別のテーマごとに議論しています。改正の視点の一つは消費者保護です。消費者保護の考え方を民法に反映させること自体には問題はなさそうです。しかし、労働者の立場から見た場合、契約が打ち切られる、報酬が支払われないなど多くの問題がありそうです。民法改正と労働について考えてみます。

●消費者保護に重点

 民法改正の中間的論点整理では、雇用、請負などの契約を「役務提供型契約」と規定することが考えられています。また、消費者保護の立場に立った改正に重点が置かれています。

 このため、改正議論では役務(サービスなど)の受領者が納得しなければ契約を解除できるように考えられています。

 消費者契約のように、消費者と企業の間で受領者の消費者が弱い立場にある場合なら、これで問題はありません。しかし、民法でこれを一般化すると、労働者個人と企業の契約では、労働者が弱い立場であるのに労働者が守られないことになってしまいます。

 消費者契約では、例えばチケットを前もって一括購入するエステサロンなどのサービスで、役務を受領する消費者が契約内容と違う不当な契約だと考えれば契約を解除できます。消費者保護の立場からは当然の考えです。

 一方、トラックやバイク便などは個人と企業との間で業務委託、請負契約などを結んでいます。改正の方向では、役務提供を受ける企業側が一方的に契約を解除できることになり、労務を提供する個人が圧倒的に不利になります。

 報酬支払い時期についても、消費者契約を基本に消費者が受領して初めて報酬が支払われることなどを前提に、改正議論が進んでいます。

 これも企業と労働者の労働契約に置き換えてみましょう。企業(事業主)から請け負ったプログラム作成をシステムエンジニアが完成させたのに、何らかの事情で受け取りを拒否された場合、報酬は支払ってもらえないことになります。

 その上、途中段階でプログラムなどを見せていた場合、知的財産保護の問題も生じます。

 このため、民法で支払い時期を規定すると、大きな影響が出ると指摘されています。

●採用取り消し例も

 消費者契約では消費者を保護するため、故意に不利な事実を知らせなかった場合、消費者は契約を取り消すことができます。例えば、眺望が良いといって家を売る場合、向かいに高層マンションが建つことを知りながら、消費者にその事実を知らせなかったなどがこれに当てはまります。

 民法改正の議論では、この考えを取り入れる方向です。

 しかし、労働契約から見ると問題も生じます。例えば採用時の面接で、質問として問題があると思われる思想・信条などに関することを問われ、事実と違ったことを答えた場合、どのような影響が出るでしょうか。過去に採用時の面接で、学生運動について事実と異なる答えをしたことを理由に採用が取り消され、それを争った三菱樹脂事件の例があります。

 これが発展すれば「プライベートな時間は誰と付き合っているのか」などの質問に答えなかっただけでも、労働契約の取り消しにつながりかねないとの懸念もあります。

 これらの理由から、消費者契約法では労働契約については除外されています。民法を改正する際には、労働契約に及ぼす影響を考える必要があります。

   制作・亀岡秀人

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