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【生活図鑑】

民法改正議論(No.420) 時効の見直しで大きな影響も

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 印刷会社の元従業員らに胆管がんの発症が相次ぎ、問題になっています。その補償や賠償を阻む原因の一つが時効です。民法では時効により、労働災害などで使用者(企業)責任を問える期間を定めています。民法改正で時効の見直し議論が本格化しています。原発事故も起こったなか、生命・身体に関わる時効の見直しとは?

 労働災害の場合、労災保険は、例えば死亡してから五年以内に申請をする必要があります。胆管がん問題では、労災の時効を延長する方針などが示されています。ただし、労災の補償は限られており、慰謝料など賠償を求めるなら民法上の企業責任を問う必要があります。

●現状は2通り

 企業に損害賠償責任などを問う場合、時効は現状で二通りあります。

 まず、社員など労働契約関係がある場合、時効は十年です。使用者には安全配慮義務があり、それを怠っていたために事故などに遭ったと証明できれば、賠償につながります。

 例えば、危険な仕事に対し、上司である監督者に安全を確保するための具体策を求めたのに対策が不十分だったため、けがや疾病を発症した、などが当てはまります。

 時効は十年ですが、時効の始まりは、けがなどを負った時とは限りません。例えば、重い闘病生活で、意思疎通ができず訴えられなかった期間などがあった場合は、実際に訴えることができた時から時効が始まると考えられています。

 次に、労働契約関係がない周辺住民などの場合、時効は三年です。さらに、問題が起こってから二十年以内に訴える必要があります。

 この場合、企業側に違法行為と故意・過失があった(不法行為)ことを被害者が証明する必要があります。また、時効は損害と加害者を知った時から計算されます。

 例えば、ある事業所で事故があり未知の物質が飛散したとします。その場に従業員と、たまたま周辺住民がいました。事故から二十一年経過して、全員ががんなどを発症したと仮定します。

 大規模な健康被害などでは特別法の制定や柔軟な法律解釈などもありますが、ここでは民法の時効の条文を機械的に解釈します。すると、周辺住民は既に訴えることができる二十年の期間を過ぎているため、訴えられません。一方、従業員であった労働者は二十一年後の発症で訴えることができると考えられ、そこから十年の時効内に訴訟を起こせます。つまり、同じ事故で訴訟できたりできなかったりします。

●30年案でも疑問

 そこで民法改正議論では、有力案として、安全配慮義務違反、不法行為にかかわらず、生命・身体などの損害については、被害者が損害などを知った時から五年、訴える期間が発生してから二十年ないし三十年などにしては、との案が示されています。

 先の例では、この案なら周辺住民も提訴することができます。

 しかし、今後、原発事故による放射能汚染、未知の物質などによる健康被害も心配されるなか、三十年が訴える期間として十分なのかは疑問です。

 また、時効が五年と従来の三年から見れば長くなっています。しかし、安全配慮義務の時効十年からは半分になってしまいます。その上、訴える期間も新たに設定されるなど問題が指摘されています。また、事前に原因や広がりの確認など、訴訟の準備に数年かかる場合もあります。

 そこで、三十年についてはさらに長期化、その期間は時効とする。また、五年の時効についてもさらに延長する必要などが指摘されています。

 時効の見直しは影響が大きいだけに、内容が注目されています。

 制作・亀岡秀人

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