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<6年後の私たち>教育 未来担い手 負債重く

「学生を切り捨てるな」とデモ行進する若者たち=14日、東京都港区西新橋で

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 「学費・奨学金は問題だらけ」。激しい夕立があった十四日午後。青色の横断幕を掲げた六十人ほどの大学生たちが、東京・霞が関の文部科学省周辺をデモした。「お金がなくても大学に行きたい」「日本の奨学金は借金だ」。段ボールで作ったプラカードの文字は、みるみる雨でにじんでいった。

 大阪経済法科大学四年の斎藤隼飛(はやと)さん(22)は「声を上げないと、変わらない」と大阪から参加した。家庭の事情もあって、高校のころから育英会など複数の奨学金を借りており、総額は約一千万円に上る。「社会に出る前から負債を抱え、マイナスからのスタートになる。この国の教育を受ける権利は平等じゃないんだなあと思う」

 在学中に借りた奨学金を返せない若者が増え続けている。大学生たちに奨学金を貸与している独立行政法人・日本学生支援機構によると、昨年三月末時点の未返還額は、過去最大の八百七十六億円に上った。

 無利子貸与だった奨学金制度に、有利子貸与が加わったのは一九八四年。今では三人に一人の大学生が機構の奨学金を利用している。大学を卒業後、終身雇用を前提とする制度は雇用状況が厳しくなる中、ほころびが生じている。

 母子家庭で育った東京都内の二十代女性は、日本学生支援機構から奨学金を借り、働きながら、都内の大学の法学部を今春、卒業した。正社員の事務職として昨年十一月に就職の内定を得ていた。

 試用期間の名目で今年一月から働き始めると、わずか六日で解雇された。「パソコンのソフトがうまく使えない」というのが企業側の主な言い分だ。「この先一体、どうすれば」。途方に暮れた。

 十月から月一万五千円、計三百万円余の奨学金の返済が始まる。職業訓練校に通い、次の就職先を探す予定だが、この先も安定した仕事に就ける保証はどこにもない。

 NPO法人・自殺対策支援センター「ライフリンク」(東京)代表の清水康之さん(41)は「日本は公的な教育支出が低すぎる。返さなくていい給付型の奨学金を充実するべきだ」と指摘した。今春、同センターが公表した、就職活動中の大学生ら百二十一人を対象にした意識調査では、一割が「自殺を考えた」と回答し、追い詰められる学生の姿が浮き上がった。七割近くは国への不信感も訴えた。

 日本の教育に対する公的支出は脆弱(ぜいじゃく)だ。経済協力開発機構(OECD)によると、二〇一〇年の国内総生産(GDP)に占める、国や地方自治体の教育機関への支出の割合は、OECD加盟国で比較できる三十カ国中三十位の3・6%。四年連続で最下位だ。

 昨年末、政権交代で再登板した安倍晋三首相は前回と同様、教育改革に力を注ぐ。その内容は、道徳教育の充実や教育委員会改革など「精神論」が先行。公的支出の拡大につながる話ではない。

 清水さんは「セーフティーネットが脆弱なため、今の学生はおびえながら前に進まざるを得ず、チャレンジ精神や生きる意欲がそがれている」と指摘。若い世代が停滞すれば、社会の活力は生まれない。「悪循環を政治の力でどう断ち切るかが、問われています」 (加藤文)

◆公約見極めポイント 給付型なら財源示して

 下村博文文科相は教育支出を「OECD平均(5.4%)まで引き上げたい」とするが、具体的な道筋は示していない。

 参院選の公約では、多くの政党が、給付型奨学金の創設など教育支出の充実を掲げる。奨学金の問題に詳しい岩重佳治弁護士は「給付型奨学金を導入するのであれば、範囲や財源など、政党には具体的な主張が求められている」と指摘。「そもそも子どもの成長や若者の支援は、社会的な責務だという認識があるかどうかに着目し、本気でやる気があるのかどうかを見極めてほしい」と話した。

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