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【東京】

<東京SAKE物語>(1)「和酒専門」沼野酒店 町潤す復活の酒屋

日が暮れ、店先に明かりがともった沼野酒店。希少な日本酒目当てに大勢の客でにぎわう=北区で

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 今年の干支(えと)「酉(とり)」の字には、酒を入れる器という意味がある。酒の中でも日本酒は近年、「町の酒屋さん」再生の切り札になったり、外国人観光客らの人気を集めたりしている。東京で、日本酒と共に生きる人たちの物語を追った。

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 夕暮れ時、白熱電球の温かい光が店先にともる。店内の棚には、全国各地の蔵元から直送された吟醸酒や純米酒、梅酒などの一升瓶がずらり。会社帰りのサラリーマンがふらりと立ち寄り、店員にお薦めの酒を聞いたり、試飲を楽しんだりしていく。

 JR赤羽駅(北区)東口から歩いて十分ほど。経営者が高齢になり、後継者もいなかったため二〇一二年十月に閉店した沼野酒店が昨年十一月、看板など外観はそのままに再び店を開けた。酒の業務用卸の会社を親会社に持ち、「町の酒屋さん再生プロジェクト」を手掛けるリカー・イノベーション(足立区)が、日本酒中心の「和酒専門店」としてよみがえらせた。

 「今どき閉める酒屋はあっても、開けるところはないでしょう」。元経営者の沼野正二さん(81)が笑う。リカー社と以前から付き合いがあり、話を受けた。自身は運営には関わらず、店にはリカー社の二十代の若い店長が立つ。店がある志茂平和通り商店街の大久保善雄会長(69)は「通りに活気が出た。明るくなって、うれしいね」と喜ぶ。

 日本酒約五十種のほか、果実酒、焼酎など計約百種をそろえる。寒梅酒造(埼玉県久喜市)の「寒梅」、長谷川酒造(新潟県長岡市)の「越後雪紅梅」など、都内では手に入れにくい銘柄が大半だ。ほぼ全種を試飲でき、三百ミリリットルから量り売りするのが特徴。買った酒を店内で飲む「角打(かくう)ち」と呼ばれるスタイルにならい、一升瓶の酒を有料で器に入れてもらって楽しむ客も少なくない。

 「見せ方次第で、日本酒ファンの裾野はもっと広がるはず」。リカー社の広報担当、辻本翔さん(28)は狙いを話す。希少な酒を求める客や、繁華街が広がる赤羽駅周辺の飲食店主らの来店を見込む。「新しい酒と出合い、味わい、納得して買える、沼野酒店のニーズはある」

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一升瓶が並ぶ店内で笑顔を見せる元経営者の沼野正二さん(左)とリカー・イノベーションの辻本翔さん

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 沼野酒店の創業は一九二八(昭和三)年。父親が始めた店を、長男の沼野さんは高校生の頃から手伝った。量り売りで酒、みそやしょうゆなどの調味料も売っていた時代。毎朝、ご用聞きに自転車で得意先を回り、午後に配達。夕方からは飲食店に商品を届けた。「晩酌用に毎晩一合ずつ買いに来るお客さんもいた。忙しかった」と振り返る。

 町の酒屋に逆風が吹き始めたのは八〇年代ごろ。スーパーの増加や女性の社会進出に伴ってご用聞きを必要とする客は減り、徐々に売り上げが落ちた。

 二〇〇〇年代に入ると、規制緩和の波が追い打ちをかけた。周辺人口と他店との距離に応じて取得が制限されていた酒の販売業免許が事実上自由化され、多くのコンビニなどが酒を置くようになった。全国小売酒販組合中央会によると、九八年に約十三万五千あった小売店(一部コンビニなどを含む)の数は、昨年四月には約五万に落ち込んだ。国税庁のデータでは、酒全体の消費量も九六年度をピークに減少傾向が続いている。

 「『酒は少量をたしなむもの』と認識する人が増えた。日本酒も晴れがましい日に楽しむもの、おしゃれな飲み物のイメージになってきた」。日本酒専門の記事を発信するウェブメディア「SAKETIMES」代表の生駒(いこま)龍史さん(30)はこう分析する。そんな時代に、日本酒業界の関係者は試行錯誤しながら、従来とは角度を変えた戦略を打ち出している。

 リカー社の「町の酒屋さん再生プロジェクト」も、そうした戦略の一環。辻本さんは「『日本酒はカジュアルに楽しめるもの』と伝えていけば、需要は増え、業界も盛り上がる。町の酒屋さんは、出口を広げる一つの新しい挑戦です」と強調した。 (奥野斐)

 <日本酒の消費量> 国税庁の統計では、1970年代に年間150万キロリットルを超え、酒類全体の約3割を占めた。2000年代に入ると100万キロリットルを割り込み、15年度は55万6000キロリットルとピーク時の約3分の1に減少。ただ、吟醸酒や純米酒など、色や香りが良い「特定名称酒」は微増傾向にある。

 

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