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【東京】

江戸文字の女性職人、独り立ちの春 荒川区育成授業に応募し6年修業

橘右橘さん(右)の前で「縁」と書く橘さつきさん=荒川区で

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 寄席や歌舞伎の看板などに使われる「江戸文字」の職人として荒川区の無形文化財に登録されている橘右橘(うきつ)(本名中村泰士)さん(64)の下で、六年前から修業していた銘苅(めかる)由佳さん(34)=静岡県熱海市出身=が、「橘さつき」の名前をもらい独立を果たした。女性の江戸文字職人は珍しく「エネルギーある文字の魅力を発信したい」と張り切っている。(石原真樹)

 銘苅さんは、地域の伝統工芸技術を継承していこうと職人の下で修業を積む若手に研修手当を支給する区の「匠(たくみ)育成事業」に応募し、二〇一一年から右橘さんの指導を受けてきた。

 応募したころは印刷会社の営業職。実践女子大美学美術史学科で美術史を学んだが、美術関係の仕事を諦めたことが、ずっと心にひっかかっていた。テレビ番組で区の育成事業を知り「これだ」と思った。

 まずは、落語の演目などを書く「寄席文字」に取り組んだ。大入りを願い、隙間なく、客足が伸びるように右上がりに書く。

 「一」を書くのも難しかった。師匠に「文字のバランスが大事」「勢いを」と言われても理解できない。「違う」「こないだも言っただろ」。師匠の厳しい言葉に何度も泣いたが「自分で決めたこと」と歯を食いしばった。右橘さんの実演に付き添い、筆を洗うなど裏方を務めながら立ち居振る舞いを学び、自宅に帰ってからも筆を握った。

 弟子入りしてから四年ほどたったころ。ふと「師匠には見えているものがたくさんある。でも私はここまで。これを積み重ねるしかない」と思った。みな同じに見えていた字の良しあしが少しずつ分かるようになり、面白くなっていった。

 二ツ目専門の寄席「神田連雀亭」(千代田区神田須田町)でビラを書くなど経験を積み、先月八日、橘流寄席文字一門の許しを得て「橘さつき」を名乗ることが認められた。右橘さんが考えてくれた柔らかい響きの名前は、右橘の「きつ」と、「五月(さつき)待つ 花橘(はなたちばな)の」で始まる古今集の和歌にちなんだ。右橘さんは「若い落語家たちと一緒に育っていってほしい」と見守る。

 銘苅さんが認められたのは、まだ寄席文字だけ。歌舞伎で使う「勘亭流」と神社仏閣に納める「千社札」の書体は修業が続く。「格好いいなと思ってもらえるように、どんな形で発信したらいいかも考えたい」。江戸から続く伝統に新しい息吹を吹き込むつもりだ。

 

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