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【国際】

元米軍スナイパーの証言 罪悪感…命絶つ仲間多く

米テキサス州サンアントニオの自宅で、「戦争に出口はない」と語る元米軍スナイパーのニコラス・アービングさん

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 イラクやアフガニスタンの戦場で奪った命は、数えただけで三十三人。米陸軍特殊部隊のスナイパー(狙撃手)として「死に神」との異名を取ったニコラス・アービングさん(30)は、「世界の警察官」の役割を放棄せず、今も実質的に戦争を続ける米国に疑問を投げかける。「出口のないトンネルだ」。心的外傷後ストレス障害(PTSD)の苦しみから抜け出しつつある今、命の重みをかみしめている。 (米テキサス州サンアントニオで、北島忠輔、写真も)

 同じ夢を何度も見た。銃弾を受けてバラバラになった男の顔や手足がまとわり付いてくる。

 二〇〇五年、十八歳の時だった。イラク南部に赴任した翌朝。装甲車に、うつろな目をした男が運転する車が近づいてきた。「撃て、早く撃て」。四カ月の訓練で覚えた通りに狙いを定め、引き金を引いた。弾は男に当たった。車には手製爆弾が積まれていた。

 これが戦場か。初めて人の命を奪った戸惑いと、役目を果たしたという手応えが同時にやってきた。射撃を命じた下士官は言った。「興奮はやがて消え、人を撃った感触だけが残る」

 その夜は落ち込んだ。人を殺してはいけないと教えられてきた。あの男に家族はいるのか−。

 スナイパーとして「悪いやつをできるだけ殺せ」とたたき込まれた。自分の銃に記録した「悪いやつ」は三十三人。実際にはもっと多い。いつしか「死に神」と呼ばれるようになった。

 五年後に第一線を退いた後も、頭上を飛ぶ戦闘機を見ると、逃げ惑うアフガンの子供たちの姿が頭をよぎった。風が運んでくる乾いた土のにおいは、射殺した兵士の顔を思い出させた。その都度、自分が正しいと信じてきたことと罪悪感の間を行き来した。

 PTSDに悩み、自ら命を絶った仲間は知っているだけで十二人。運を天に任せよう。自分も二年前、回転式のピストルの弾倉に一発だけ弾を込め、頭に当てて引き金を引いた。弾は出なかった。

 数日後、ある編集者から連絡があった。「あなたの経験を本にしたい」。退役後に書いていた体験記が目に留まり、本はベストセラーになった。昨年末、長男を授かった。

 イラクやシリア、アフガンには「テロとの戦い」を理由に一万人規模の米兵が派遣されている。その一員として戦った経験から言えるのは、目的を失った戦争には出口がない、ということだ。

 息子は絶対に戦場には行かせない。この子の命と人生を守ることが、今の自分の任務。そう考えるようになってようやく、あの悪夢から解放された。

 

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