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【国際】

<習一強の現場から 中国共産党大会> (1)貧困

岳成義の遺影を手にする両親

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 中国・山西省の世界遺産「雲崗石窟(うんこうせっくつ)」で有名な大同の街から西に約九十キロ。トウモロコシとアワの栽培畑が広がる貧しい農村地帯にある赤レンガと土壁で造った質素な住宅の中で、岳和(がくわ)(76)と張桂蘭(ちょうけいらん)(71)が涙を浮かべていた。息子の岳成義(がくせいぎ)(50)を突然失ったからだ。

 八月十四日、成義は次男の大学進学について相談するために村の役場に向かった。秋に入学する大学の費用として、一カ月以内に五千元(約八万五千円)を準備する必要に迫られていたからだ。生活は成義が製鉄所の臨時工として稼ぐ月収三千元(約五万一千円)が頼り。貧しいため、国の奨学金制度を利用する以外、子どもを大学に通わせる手段はなかった。

 しかし、成義は一向に戻って来ない。不審に思った長男が役場を訪れると、会議室で血だらけの状態で倒れている成義を発見。腹や首の数カ所に傷があり、病院に運ばれたが、間もなく亡くなった。奨学金を受けるメドが立たず、抗議のため自殺したとみられる。

     ◇

 政府は「生活に困窮し、精神的圧力で自殺を図った」と一方的に発表した。貧困が生んだ悲劇。成義の死は地元新聞も「子どもの大学合格から一週間後に父が自殺」と大きく報じた。成義の死を知った次男は一時進学を断念したが、周囲の説得と学費援助を受けられる見通しが立ったことで入学手続きを取った。

 それでも年老いた両親の表情は晴れない。「毎日、息子のことを考えるんだ。学費の問題がなければ死ぬこともなかったはずだ」。遺影を手に無念さをにじませる。「秋にトウモロコシの収穫を手伝ってくれた息子はもう帰ってこない」

 世界第二位の経済大国となった中国。だが、一人当たりの国内総生産(GDP)は八千ドル(約九十万円)余りと、日本の約四分の一、米国の七分の一にすぎない。

 一九八〇年代、「改革・開放」路線を主導した〓小平(とうしょうへい)は「先に豊かになる地域と人から豊かになればいい」という「先富論」を唱えた。いずれ富裕層が貧困層を支えるとの期待にもかかわらず、年収三千元未満の貧困層は今も四千三百三十五万人に上る。貧困の撲滅と格差是正が喫緊の課題なのは今も変わらない。

 「貧困を解消し、民生を改善し、共に豊かになることを目指すことは社会主義の本質的要請だ」。習近平(しゅうきんぺい)は共産党総書記の就任後間もない二〇一二年十二月、河北省を視察した際に貧困層の生活改善に強い意欲を見せた。二一年に結党百年を迎える党は、二〇年までには貧困者をなくし、「小康社会(ややゆとりのある社会)」を実現する目標を掲げる。その恩恵が末端に届いて豊かさを実感できる日はいつ来るのだろうか。 =敬称略

 (山西省右玉県で、秦淳哉、写真も)

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 五年に一度開かれる中国共産党の党大会が十八日から始まる。二期目に入る習近平総書記は一期目の統治をどう総括し、どのような将来像を示すのか。国内に抱える課題の現場を追った。

<習近平総書記の5年間> 習氏は2012年11月、中国共産党トップの総書記に就任。「中華民族の偉大な復興」を掲げた。習指導部は「反腐敗」運動を展開して大物幹部を摘発。貧困の撲滅を進める一方、人権団体の活動を厳しく制限し、少数民族や香港独立の動きも強権的手法で封じた。経済面では発展の鈍化を受け入れる方針の下で余剰生産能力の削減に着手。反腐敗や軍改革などを通じて権力集中を進めた習氏は16年10月、党の「核心」に位置付けられ「一強体制」を築いている。

※〓は、登におおざと

 

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