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【国際】

クルド 議長退陣へ バルザニ氏、任期延長拒否

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 【カイロ=奥田哲平】AFP通信によると、イラク北部クルド自治政府のバルザニ議長は二十九日、来月一日に迎える議長職任期を延長しない考えを自治議会で表明した。独立の是非を問う九月の住民投票を巡ってイラク中央政府との対立が続くのを受け、事実上の退陣に追い込まれた形だ。

 自治議会は二十四日、来月に予定していた議長選と議会選を八カ月間延期すると決定。これに対し、バルザニ氏は議会に「十一月一日以降、議長職を続けるのを辞退する」との書簡を送付。二十九日に議場で読み上げられた。

 バルザニ氏は書簡の中で、議長権限を分割し、法的空白を生じないようにも求めた。政権に近い関係者は本紙に「(退陣は)中央政府を満足させ、交渉を始めるためだ」と述べた。議会はバルザニ氏の提案を討論している。

 バルザニ氏は、フセイン政権時代の一九七九年に独立闘争の英雄だった父ムスタファ・バルザニが創設したクルド民主党(KDP)の指導者に就任。二〇〇五年から自治政府トップを務め、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦を理由に、一五年の任期満了後も選挙を経ずにとどまっていた。

 イラク中央政府や国際社会の反対を振り切り、先月二十五日に住民投票を強行。これに反発する中央政府は、自治区内の空港発着の国際便停止などの締め付けを開始。さらにイラク軍は、今月十六日から自治政府が一四年以降に広げた実効支配地域に進攻し、財政収入の柱だった油田地帯キルクークなどを失った。

 二十五日には投票結果を凍結すると表明したのに対し、アバディ首相は投票自体を破棄するよう要求して拒否。野党からは公然とバルザニ氏の辞任要求の声が上がるなど孤立した状況に追い詰められた。

◆キルクーク巡り 米の出方読み違え響く

 独立闘争の象徴だったクルド自治政府のバルザニ議長が退陣する見通しになったことで、今後の指導体制を巡り、内部対立が激しくなる恐れがある。民族の悲願実現への道は大きく後退したと言っても過言ではない。 (カイロ・奥田哲平)

 バルザニ氏の誤算の一つは、米国の出方を読み違えたことだ。自治政府に近いある関係者によると、中央政府が今月中旬に軍事行動をちらつかせて油田都市キルクークの明け渡しを求めた際、進攻計画を知る米国はバルザニ氏側に「(クルド側が)一発でも発砲したら、すべての支援を止めると警告した」という。この関係者は「それでもバルザニ氏側は米国は最終的には介入して進攻を食い止めると楽観視していた」と明かす。

 自治政府の治安部隊ペシュメルガには、バルザニ氏率いるクルド民主党(KDP)と今月初旬に死去したタラバニ前大統領のクルド愛国同盟(PUK)の系列部隊がある。キルクークはライバル関係にあるPUK派の拠点。中東メディアでは、隣国イランと関係の深いPUK幹部が中央政府と密約を結び、抗戦せずに後退したとの指摘がある。

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 そもそも自治区内ではバルザニ氏の独裁的な支配に反発する声が根強く、二〇一五年から自治議会は停止状態。PUKは独立支持だが、住民投票には慎重な立場だった。自治区が一枚岩になりきれないまま投票に踏み切ったことが、結果的にイラク軍の進攻を招いたと言える。

 今後の焦点はバルザニ氏退任後の指導体制だ。関係者によると、KDP側は水面下でバルザニ氏のおいのネチルバン首相への権力移譲を模索。KDPと関係の深い隣国トルコも後継者として望んでいるという。しかし、野党側は「院政」を敷くのを受け入れず、全政党が参加する暫定政府の創設を求めている。

 旧フセイン政権や周辺国に迫害された歴史を持つイラクのクルド人社会は、バルザニ氏とタラバニ氏という独立運動の闘士を筆頭にした「部族社会」の名残が強い。対立と協力を繰り返しながら自治権拡大を実現した二人が表舞台から姿を消したことで、当面は中央政府に対抗しうる政治体制の構築を迫られる。

 

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