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【国際】

エジプトテロ 生き残った指導者語る「信者の血が顔を隠してくれた」

モスク襲撃テロが起きたラウダ村郊外で、犠牲者を集団埋葬する住民たち=11月24日夜、地元住民提供

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 エジプト北東部シナイ半島ラウダ村のモスク(イスラム教礼拝所)は十一月二十四日昼、金曜礼拝のため約五百人の男性信者で埋め尽くされていた。指導者ムハンマド・ルジク師(26)が説法を開始して五分、外で銃声が聞こえ、屋外で祈っていた信者たちが助けを求めてなだれ込んできた。

 武装集団がモスク内で乱射し始める。壇上のルジク師は出入り口につながる階段に飛び込む。銃弾を浴びた信者数人が倒れ、覆いかぶさり身動きできない。

 「流れた(信者の)血が顔にかかり、私を隠してくれた。見つかったら殺されると思い、息をするのさえ恐ろしかった」

 三百五人が死亡したモスク襲撃テロ。生き残った指導者らが「その時」を明かした。(エジプト北部フセイニーヤで、奥田哲平)

◆「本当に攻撃するとは」

 救出されたモスクの指導者ムハンマド・ルジク師(26)の前には陰惨な光景が広がっていた。三百五人の犠牲者のうち、子どもは二十七人。金曜礼拝に出掛けるために着たよそ行きの白い民族衣装ガラベーヤが「真っ赤に染まっていた」。

 人口約二千四百のラウダ村は、イスラム教スンニ派の神秘主義(スーフィズム)を信仰する住民が多数を占める。神との精神的合一という境地を目指し、一心不乱に舞踏しながら聖典コーランや神の名を朗唱する。宗教的には穏健で、エジプトの人口約九千三百万の15〜20%を占める。

 しかし、戒律の厳格化を主張するイスラム過激派は、こうした儀式を異端とみなす。事件の犯行声明は確認されていないが、過激派組織「イスラム国」(IS)の分派組織「ISシナイ州」が実行した可能性が指摘されている。

 ルジク師は一年前、スーフィズムの信者たちからモスクが脅迫を受けていると聞いた。しかし、「本当に攻撃を受けるとは想像もしていなかった」。

 AFP通信によると、数週間前に武装集団メンバーとみられる男らがモスクを訪問。今月一日のイスラム教の預言者ムハンマドの生誕祭で儀式をやめるよう脅した。

 モスクから五百メートル離れた所に暮らすサバハさん(45)は、遺体が折り重なるモスクで子どもらの名前を大声で呼んだ。三男(8つ)は遺体の下敷きになって無事だったが、看護専門学校を卒業したばかりの長男アミールさん(21)が亡くなった。

 本紙の電話取材にサバハさんは「私は幸いにも三男が助かったけど、近所の女性は夫と子ども三人全員を亡くした。どう声を掛けていいか分からない」と語った。三男は、今もショックで泣き続けているという。

 「兄さん、助けてくれ。死にそうだ」。弟ヌセアさん(35)を失った男性は、携帯電話で叫んだ最後の言葉が忘れられない。モスクで発見した遺体は銃弾が左胸に命中していた。

 ラウダ村は事件で男性の四分の一を一挙に失った。一人ずつ埋葬できず、郊外に集団墓地がつくられた。

 全身を打撲したルジク師は今、同村から約百二十キロ西の故郷フセイニーヤで療養している。イスラム教スンニ派の最高権威機関アズハルを卒業し、初めて指導者として派遣されたのが、このモスクだった。

 「自らと異なる主義を持つ人たちを背教者とみなすのはイスラム教徒ではない。必ず戻って説法をやり遂げたい」。痛みをこらえながら、声を絞り出した。

 

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