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【国際】

<終わりなき闘い ポストISの世界> (1)戦争しか知らない子どもたち

レバノン北部で11月末、避難生活を送るハイダル君(左)とサッカルさん(中)ら

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 「大学に行って勉強したい」。ゆっくりした発音でハイダル君(5つ)が将来の夢を語った。内戦下のシリアから二〇一四年にレバノン北部に逃れた幼子は、最近まで言葉を失っていた。

 ハイダル君は四人兄弟。父サッカルさん(29)はシリア中部ハマ郊外で農業を営んでいた。過激派組織「イスラム国」(IS)が四輪駆動車を連ねて乗り込んできたのは一四年夏だった。「ひげを生やし、武器と金をたくさん持っていた。別の惑星から来たようだった」と振り返る。

 IS戦闘員らはイスラム教の厳格な教義を住民に強制した。たばこを吸えば百回のむち打ち。シリアのアサド政権軍との密通が疑われれば、広場で処刑された。「十代の若者にとっては力強く、魅力的に映ったのかもしれない」。勧誘された若者は次々とIS戦闘員に加わった。

 幼かったハイダル君らが残虐な行為を覚えているのかは分からない。ただ、銃声を聞けばパニックに陥り、テレビで戦闘場面が映ると母親にしがみついた。治療を受けさせようとレバノンに逃れた。国連の医療機関に通院し、少しずつ言葉を取り戻している。

 国際的な非政府組織(NGO)「セーブ・ザ・チルドレン」がシリア国内で約百六十人の保護者を対象に行った最新調査では80%が「子どもが以前よりも攻撃的になった」、71%が「頻繁に夜尿や失禁をするようになった」と答えた。48%が「言葉を失った子どもを知っている」という。いずれも心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状だ。

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 レバノンにあるNGO「リスタート」は、こうした心に傷を負った難民の子どもの治療に当たる。昨年だけで三百六十五人。処刑の場面を見たある少女は、いまだに肉類が食べられないという。スザンヌ・ザバール代表は「難民は人数の多少ではなく、人間の尊厳の問題だ」と語る。

 中東の民主化運動「アラブの春」を機に内戦が始まって六年余り。ISはほぼ消滅し、戦闘は収まりつつある。だが、その先に待ち受けているのは「戦争状態しか知らずに育った若い世代が国家再建を担う時代」とザバール氏は指摘。医師や専門家の多くは国外に脱出し、国内で治療を受けられる体制は整っていない。

 サッカルさんはレバノンで、トラック運転手をして生計を立てる。故郷は今年十月、アサド政権軍に解放された。ただ「記憶は決して消えないし、戻れば思い出す」。子どもの未来のために帰国できないでいる。 (レバノンで、奥田哲平、写真も)

 ◇  ◇ 

 暴力と恐怖でイラクとシリアの広範囲な地域を支配したISがほぼ壊滅した。一方で、ISがばらまいた過激思想や戦闘員は世界各地に拡散し、テロの脅威は増している。「IS後」の課題を探る。

 

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