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【国際】

<トランプ的世界>(1)北朝鮮 背水の正恩氏、核は「命」

北朝鮮の労働新聞が掲載した、新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」の発射実験=コリアメディア提供・共同

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 トランプ米大統領が就任して一月二十日で一年。世界は「米国第一主義」に翻弄(ほんろう)され、さまざまな影響を受けてきた。ことし、敵対あるいは競合する国々は、米国にどう対峙(たいじ)していくのか。

◆不可解な現象

 北朝鮮で昨年春以降、急騰し続けていたガソリン価格が十一月に入ると、少しずつ下がり始めた。ピーク時には一キロ当たり約二・六ドルと、年初の三倍近くの水準にまで達していた。

 国連安全保障理事会は昨年九月、六回目の核実験を受け、原油や石油精製品の北朝鮮への輸出を制限する制裁決議を採択。中国の貿易統計によると、北朝鮮がその大半を依存する中国からのガソリン輸出は十月にはゼロになった。

 韓国政府は十二月末、北朝鮮船舶が十月半ばに公海上で、香港籍の船舶から石油精製品六百トンを密輸していたと明らかにした。

 ただ、不足が進んでいるはずのガソリン価格が下落するという不可解な現象の背景は、こうした制裁逃れだけではないようだ。

 北朝鮮関係者は「トラックが動かないからだ」と別の理由も挙げる。石炭や鉄鋼石、海産物、繊維製品などの禁輸措置が取られたことで、国内の生産地と積み出し港を往来する輸送車両が減り、ガソリンの消費も鈍化したのだという。

 この関係者によると、例えば石炭輸送の場合、運転手は一回につき少なくとも三十ドル以上の外貨を手に入れることができた。しかし制裁の影響で外貨が稼げなくなり、「運転手があぶれている」。

◆何でも売る

 安保理はトランプ米政権主導の下、核実験と弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮に対し制裁強化決議を四回採択し、北朝鮮経済を圧迫した。その結果、北朝鮮が貿易の九割を依存する中国への十月の輸出総額は、八月の約三割にまで落ち込んだ。平壌(ピョンヤン)駐在の外交官は「北朝鮮で外貨不足が進んでいる」と口をそろえる。

 輸出総額が減る中、果物やナッツ類の対中輸出が九月から唐突に増えた。十月の輸出額は、八月の二十三倍相当の約二千二百六十万ドル(約二十五億五千万円)に激増。北朝鮮消息筋は「季節的な要因の可能性」を挙げる一方、「売れる物は何でも売ろう、という考えなのだろう」と推し量る。

 韓国のシンクタンク、世宗研究所の鄭成長(チョンソンジャン)統一戦略研究室長は「制裁は北朝鮮の幹部から住民にまで、確実に影響を与えている」と指摘する。韓国の研究機関では、経済改革や市場の容認でこの数年間、プラス成長を続けてきた北朝鮮経済が、今年はマイナスに転じるとの分析が多い。情報機関傘下の国家安保戦略研究院は「三月以降に深刻な打撃が出る」と予測する。

 友好国のはずの中国との関係も悪化。朝鮮労働党機関紙・労働新聞は九月、米国の圧力に押され、制裁に同調した中国を名指しは避けつつも、「図体(ずうたい)は大きくても魂がなく、金銭だけを追う隣人」と批判。十一月に訪朝した習近平(しゅうきんぺい)国家主席の特使を冷遇した。

◆孤立深める

 平壌中心部から北東に約八キロ離れた大城山(テソンサン)。北朝鮮消息筋は昨年十月、この丘陵地の警戒が厳しくなっている、と語った。金正恩(キムジョンウン)党委員長の生母、高ヨンヒ氏の墓があり、正恩氏が早朝ひそかに墓参に訪れることが増えたという。正恩氏にとって今、信頼できる親族は妹の与正(ヨジョン)党副部長だけ。国際的孤立を深める国家の若い最高指導者は「不安と寂しさがあるのだろう」と消息筋は忖度(そんたく)する。

 トランプ米大統領は、核・ミサイル開発に突き進む北朝鮮の政策転換に向け「必要な全ての措置を講じる」と、軍事的選択肢も排除しない姿勢を示す。

 しかし、鄭氏は「北は絶対に核を放棄しない」と言い切る。米全土を攻撃可能とする大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を行い、「核戦力の完成」を宣言した正恩氏は「核兵器こそが、米国による核の脅しから祖国の運命と自主権を守る威力ある抑止力、正義の宝剣」と信じるからだ。労働党元幹部の脱北者は「核は『命』と正恩氏は言っている。放棄すれば、彼の権威は失われる」と指摘する。

 韓国の慶南大極東問題研究所は「核戦力の技術的完結に向け、ICBMの試射などを続ける」と展望。外務省傘下の外交安保研究院は「ICBMの大気圏再突入技術が立証されれば、核保有国の地位を主張し、米国に軍縮交渉を求める可能性が大きい」とみる。

 北朝鮮は九月に建国七十周年を迎える。強力な指導者像を印象づけ、国内の結束を図るため、正恩氏は米国に屈しないという姿勢をとり続けるほかない。

 (北京・城内康伸)

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