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【国際】

<トランプ的世界>(3)欧州 「反難民」危機あおる

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 チェコの首都プラハのターミナル駅に近い酒場で、工場労働者のハンプルさん(48)はビールをあおりながら持論を繰り返した。

 「米国に来た白人はインディアンを(居住地から)追い出した。チェコに来たイスラム教徒は、米国に来た白人と同じ。今われわれはインディアンの立場だ」

 ハンプルさんは三年前、中東から大勢の難民や移民が欧州に渡ったのを機に、反イスラム運動を立ち上げた。過激な思想は批判を招き、一昨年秋に名門カレル大学での教職を失った。

 イスラム教徒はチェコの法よりも女性に差別的なイスラム法「シャリア」を優先していると主張。イスラム諸国などからの入国を規制する大統領令を出したトランプ米大統領を評価する。

 しかし、直接イスラム教徒から嫌な思いをさせられた経験はない。実際、チェコにイスラム教徒の難民はほとんどいない。欧州連合(EU)が三年前、チェコに受け入れを指示した難民四千三百六人のうち、チェコが受け入れたのはわずか十二人。ポーランド、ハンガリーはゼロだ。

 チェコ西部バルコバの難民キャンプは不法に入国した人々を収容するが、近くに住む主婦バーツラビーコバーさん(63)は「難民は施設内で管理されているので怖いと思ったことはない」、レストラン経営のチャペックさん(67)は「キャンプは村人の雇用を生んでいる」とさえ言う。

 現実には姿が見えない難民が脅威とみなされる−。「きっかけは二〇一五年一月のイスラム過激派による(仏風刺週刊紙)シャルリエブド襲撃事件だった」。プラハで反ヘイト(嫌悪)運動に携わるホウデックさん(33)は指摘する。

 襲撃事件後、宗教差別や民族差別に反対するホウデックさんへの批判のメールが急増した。テロの凶悪なイメージは、中東から欧州に渡る移民や難民に結び付けられ、定着した。

 こうした国民感情を政治家が利用した。昨年のチェコ下院選で、反難民を掲げて躍進した第一党を率いる「チェコのトランプ」ことバビシュ首相や、第三勢力に躍り出た新興右派政党党首で日系のオカムラ氏はもともと難民やイスラム教徒の問題に関心が薄かったといわれる。プラハ・ニューヨーク大学のペヘ教授(政治分析)は「実際にはない危機があると国民を脅し、私たちが保護すると言って票を獲得した」と断じる。

 EUは昨年末、チェコ、ポーランド、ハンガリー三カ国が割り当てられた難民を拒んでいるとして提訴を決断。制裁金を科すことも辞さない構えだ。

 「われわれは歴史の十字路に差しかかっている」とペヘ氏。一九八九年の民主化と二〇〇四年のEU加盟で「西側」に組み込まれた旧東欧諸国で今、排外的なポピュリズム(大衆迎合主義)が、「人権尊重」「多文化共生」といった統合の価値観を揺るがしている。(プラハで、垣見洋樹)

 

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