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【国際】

北アイルランド和平合意20年 英EU離脱交渉 和解に影

ベルファストで、カトリック系住民が分離独立闘争の様子を描いた壁画

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 英国とアイルランド共和国が、英領・北アイルランドでの激しい分離独立闘争を和平に導く「ベルファスト合意」を結んで十日で二十年。合意は、英残留かアイルランドとの統合かを巡り約三千五百人が犠牲になった流血の歴史に終止符を打ち、地続きの国境の自由な往来を可能にした。しかし、来年三月に控えた英国の欧州連合(EU)離脱に向けた交渉が、ガラスのように繊細な和平の行方に影を落としている。(ベルファストで、沢田千秋、写真も)

 北アイルランド最大の都市ベルファストには、アイルランドとの国境より、はるかに堅牢(けんろう)な壁が今も残る。アイルランド統合を目指す少数派カトリック系住民(リパブリカン)と、英国統治を望む多数派プロテスタント系住民(ロイヤリスト)の住宅街を隔てる「平和の壁」だ。双方は競うように街中に壁画を描いた。リパブリカンは英国に抵抗した戦士の雄姿を、ロイヤリストは英女王を。

 リパブリカンのピーダー・ウィーランさん(60)は、爆弾で英警察隊の殺害を計画した罪で一九七七〜九二年まで服役。今も壁の反対側に立ち入らず、北アイルランドの存在も認めず、EU離脱に悲願達成を託す。

 「(EU離脱を問う二〇一六年の)英国民投票で北部(北アイルランド)の過半数が残留に投票した。今後はロイヤリストも、アイルランドと共にEU残留の道を選ぶのではないか。統一は五年以内にできる」

 英国のEU離脱後、EU加盟国アイルランドとの国境には出入国審査や通関手続きが求められる。EUは、英国の新たな国境管理を自由往来の妨げと判断すれば、北アイルランドをEUの規制下に置く方針。その場合、北アイルランドの帰属意識は英国ではなくアイルランドに近づきそうだ。

 ロイヤリスト民兵組織の狙撃手だったノエル・ラージさん(60)はリパブリカンへの殺人罪などで、八五年に終身刑を受け、和平合意で恩赦となった。大学で地域学を専攻後、ベルファストで双方の共存を模索するプロジェクトに参加する。

 「平和の壁は、ないと安心して暮らせないと言う人がいるから、いまだ存在している。完璧な平和ではない」と話す。「EU離脱後、何が起こるか誰にも分からない。紛争の再燃はあってはならず、(帰属意識をあおる)厳格な国境管理には反対する」としつつ、かつてカトリック系過激派アイルランド共和軍(IRA)と戦った自負心が一瞬、首をもたげた。「一つだけ心から言える。当時、ロイヤリストが抵抗しなかったら、英国は北アイルランドを放棄していただろう」

 ベルファストの観光コンサルタント、ジョー・オースティン氏は「英国のEU離脱を望まない過半数の北アイルランドの民意を無視し、交渉が進んでいる。ベルファスト合意の危機だ。合意は、平和の設計図であり礎だ。民意を無視し続ければ、壊れやすい和平プロセスを脅かす。慎重に守られなければならないのに」と悲嘆した。

 <ベルファスト合意> 12世紀以降、英国に実効支配されていたアイルランドは1937年、北部6州を除く26州が共和国として独立。南北分断で、北アイルランドでは英統治を望む多数派プロテスタント系と、アイルランド統合を求める少数派カトリック系の住民が対立し、69年から両派過激派による武力闘争に発展。98年4月10日、両派は北アイルランド自治政府設置などを柱とした和平に合意した。合意の功績により、両派の政治指導者2人が同年のノーベル平和賞を受賞した。

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