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【国際】

<サウジ維新 普通の国へ>(中)宗教界や保守層の不満 開放政策 反動は暴力

首都リヤド郊外の砂漠で、放牧するラクダとともにお茶を楽しむドゥゲムさん(左から2人目)の一家

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 砂漠に落ちる夕日が、ゆったりと草をはむラクダを照らす。高層ビルが林立する首都リヤドから一時間余り。「ここにはサウジアラビアの伝統がある」。四人の息子とともに、アブドルラフマン・ドゥゲムさん(48)が誇らしげに言う。

 農業の傍ら、愛玩用のラクダを育てて売買するのが仕事だ。三代前から引き継ぐラクダは二十頭余り。きれいな顔立ちに長い首、コブがやや後背にあるのが美しさの基準。一般的には十万リヤル(約三十万円)〜二十万リヤルで取引され、高値になれば百万リヤルを超えるという。

 元来が遊牧民のサウジ国民にとって、ラクダは特別な存在だ。イスラム教の預言者ムハンマドは、神の啓示を受ける前にラクダで交易の荷を運ぶ仕事に就いていた。暑く乾燥した気候に耐え、広大な砂漠を渡るのに欠かせないラクダは、時には肉や皮が衣食住の必需品に姿を変え、生活文化に深く根差してきた。

 ドゥゲムさんは普段リヤド市内に暮らすが、毎週末は家族とともに郊外のラクダ放牧地に出掛ける。子どもはラクダの育て方を学び、イスラム教の戒律に沿った解体方法を身に付ける。もちろん家族以外の友人を招いた場合は、女性はテントで隔てる。「どんなに国が発展しても、連綿と続いた伝統を守ってほしい」。言外には、急速に変わりつつある社会への戸惑いと警鐘がにじむ。

 女性が自動車を運転し、映画館などの娯楽を増やす…。ムハンマド皇太子が主導する改革開放政策は大多数の若者に歓迎される一方、ドゥゲムさんのような保守層や宗教界には不満がくすぶる。イスラム教の聖地メッカを擁し、ワッハーブ派の厳格な宗教規範に根差す伝統を、欧米の価値観に染めるように映るからだ。

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 実は、こうした葛藤は初めてではない。一九七九年にメッカのモスク(イスラム教礼拝所)が占拠された事件は、救世主を名乗る過激派が流入しつつあった欧米文明を批判し、純粋なイスラム教徒への回帰を呼び掛けた。九一年の湾岸戦争では米軍駐留が反発を招き、サウジ出身の故ウサマ・ビンラディン容疑者が創設した国際テロ組織アルカイダは反米を旗印に支持を集めた。

 サウジ政府は昨年来、改革を実行に移すとともに、批判的な宗教指導者を相次ぎ拘束。宗教警察を弱体化させた。イスラム過激派に詳しい評論家カメル・ハビーブ氏(エジプト)は「改革の進め方があまりにも急だ」と危うさを感じ、「保守層が納得する説明はない。国民の不満を力で抑え込むなら反動が起きる」と懸念する。歴史に照らせば、それには暴力が伴っている。

 (リヤド郊外で、奥田哲平、写真も)

 

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