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【国際】

ロンドン高層住宅火災1年 「責任どこに」遺族切実

火災の犠牲になったカディールさん一家。母ヌラさんは、子どもたちの教育に人一倍熱心だった=遺族基金「ハシム・ファミリー・レガシー」提供

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 【ロンドン=沢田千秋】ロンドンで昨年六月、二十四階建て住宅「グレンフェル・タワー」が全焼し、七十二人が亡くなった火災から十四日で一年になる。犠牲者の中には、故郷を離れロンドンで豊かな生活を夢見た多くの移民がいた。二十三階の一九二号室。五人家族のカディールさん一家の暮らしぶりが、政府の火災原因の公開調査で語られた。

 父ハシムさん(44)はエチオピアのアディスアベバ出身で、父は英国大使専属シェフ。毎年のクリスマスに大使館のパーティーに招かれ、小さな英国を肌で感じていた。二〇〇〇年にロンドンへ渡り、建設や電気工事の作業員として働いた。

 母ヌラさん(35)はアディスアベバから二百キロ離れた寒村の出身。七人きょうだいと、木とわらでできた家で育った。学校へは行かず、十四歳から都会で家政婦となり家族を支えた。

 二人は〇二年、共通の知人の紹介で出会い結婚。三人の子宝に恵まれた。

 長男ヤーヤ君(13)は母の信仰心を受け継ぎ、礼儀正しく純真。イスラム教のモスクで祈りの先導役を務めた際、立派な姿に驚いた人がハシムさんに言った。「ヤーヤは君たちの『ジャンナ(天国)への切符』だよ」

 長女ファドースさん(12)は早産で、手のひらほどの小さな赤ちゃんだったが、賢く謙虚で歌が得意な少女に成長。本の虫で、ハシムさんは「彼女が読むペースで本を買い続けたら、破産する」と嘆いた。

 次男ヤコブ君(6つ)は唯一、グレンフェル・タワー引っ越し後に生まれた。ダンスが上手で、小さな体からあふれ出るエネルギーは周囲を常に笑顔にした。

 あの夜、迫り来る炎と煙の中、五人は逃げ場を失った。遺族はハシムさんがかけた緊急通報の録音を聞いた。ヤコブ君の名を繰り返し叫んでいた。「アイラブユー、ダディ」。ヤコブ君の最期の声だった。

 順に確認された五人の遺体と対面するたび、遺族は「本当に彼らの遺体なのか」と悲嘆に暮れた。

 ハシムさんの父は、五人全員死亡の報を聞いた直後、呼吸困難となり、火災から十二日後に亡くなった。ヌラさんの父も五カ月間、「誰も生き残っていないのか」と、同じ問いを繰り返しながら息を引き取った。

 遺族による証言の最後、部屋でダンスに興じ、歌を歌う三人の子どもたちの映像が流れた。

 タワーの修繕工事の際、可燃性建材が使われた責任の所在を巡っては、地元行政区にあるのか業者にあるのか、一年後の今も明らかになっていない。遺族はうつむき、涙を流し訴えた。

 「彼らはあの夜、二十四時間以上もたいまつのように燃え続けるタワーの中で、最期に何を見、何を思っただろう。彼らの絶望と恐怖を思う時、芯から震える。世界的強国の英国は、あの夜、もっとたくさんの命を助けられなかったのか。いったい何が起きたのか、それを知るために、私たちはここにいる」

 <グレンフェル・タワー火災> ロンドン西部で昨年6月14日午前1時ごろ、5階から出火。外壁に可燃性材料を含む外装材が使われ、延焼を拡大させた。スプリンクラーも作動せず消火活動も困難を極め、多くの問題点が指摘されている。

 

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