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【国際】

インドで進むトイレ改革 野外から自宅へ日本企業支援

手洗いの大切さを訴える歌をうたいながら、手洗いの方法を練習する子供たち

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 アフリカやアジアを中心に、世界で九億人近い人は自宅にトイレがなく、野外で用を足している。中でもインドは貧困層が多いという経済的な事情に加え、トイレを「不浄」とみなす宗教的背景がトイレ整備を阻む。野外での排せつは感染症の拡大や女性のレイプ被害を招きかねない大きな課題だ。そのインドで政府とNPO、企業が連携し、劇的な改善を見せ始めた農村がある。トヨタ自動車の現地法人の支援でトイレが整備されると、子どもたちは積極的に手洗いをするようになるなど、くらしにも変化が起きている。 (インド南部ベンガルール郊外チッカカルバール村で、山上隆之、写真も)

 世界のIT企業が集まる都市ベンガルールから車で二時間余り。人や車に交じり、牛が細い道をゆっくり歩く田園風景が広がる。

 チッカカルバール村の女児のラキシッタさん(11)は用を足すため一日に二回、家から八百メートルほど離れた川辺まで歩いた。思春期にさしかかった女児にとって野外で排せつせざるを得ない環境は切実な問題。朝は午前五時半までに済ませ夜は午後八時以降にした。「農作業中の人たちに見られたくなかった。だから昼間は我慢した」。トイレに行かなくても済むよう、食事や水を飲む量も抑えていた。

 ラキシッタさんは、学校で教わったばかりの感染症の恐ろしさを理由に挙げ、父親のゴーダさん(46)に「トイレがほしい」と訴えた。養蚕業を営む一家の年収二万ルピー(約三万円)に対し、一万五千ルピーの設置費用は高すぎた。

 それでも、費用の多くを州政府が補助する制度があると知り、二〇一七年一月、自宅にトイレができた。

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 実はそのきっかけは、学校だった。壁に「TOYOTA」の文字が入る、手桶(ておけ)の水で流す簡単な水洗式の女子用トイレが一六年三月、ラキシッタさんの通う村の学校に完成した。

 「持続可能な社会」を目指すトヨタがトイレ建設だけでなく、地元NPOの「SNEHA(スネハ)」とともに教育プログラムを取り入れた「ABCDプログラム」を始めたからだ。「用を終えた後の手洗いは感染症を防ぐためですよ」。NPOのスタッフが学校に通い、朝礼の時間を使って子供らに繰り返し教えた。

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 当初は学校の全児童二百四十人のうち、家にトイレを備えているのは六十人だけだった。子供を通じて、親たちも野外排せつの問題点を認識した。SNEHA代表のラマサミーさん(60)は「現在は児童全員の家にトイレが設置されました」と胸を張る。

 トイレの設置だけでなく、長続きするように手厚い意識改革まで組み合わせたプログラムはトヨタ独特の取り組みだ。これまでにトヨタが車両組立工場を置くラマナガーラ県内で、公立学校の35%に当たる五百二十七校で実施された。現地法人トヨタ・キルロスカ・モーターの立花昭人(あきと)社長は「トイレをつくるだけでは、いずれ管理が行き届かず、使われなくなってしまう。意識改革をしていくことが必要だ」と話した。

◆「不浄」観念、身分制意識変革が鍵 少女殺害事件で政府本腰

 野外排せつは、排せつ物に含まれる雑菌が人の手やハエなどを介して体内に侵入し、下痢などの病気を引き起こす。国連児童基金(ユニセフ)は「トイレが不足し、手洗いの習慣もないため、世界で毎年三十六万人の子供たちが命を落としている」と警鐘を鳴らす。人口十三億人のインドでは、二億五千万人がトイレのない家に住む。

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 インドでトイレの設置が進まない背景に、国民の八割が信仰するヒンズー教の教えがある。トイレを「不浄」とみなし、家につくることを嫌う人が多いとされる。身分制度「カースト」が根強く残り、「トイレ掃除をするのは下層の人」との差別意識も影響。せっかくトイレを設置しても管理する人がおらず、汚れたまま使われなくなるケースも多いという。

 政府もトイレ普及に本腰を入れている。AFP通信によると、インド北部の村で一四年、用を足すため夜間に外出した十代の少女二人がレイプされて殺害される事件が発生し、大きな社会問題になった。この年に就任したモディ首相は、一九年までに野外排せつをなくす「きれいなインド」運動を始めた。

 貧困層向けにトイレ設置の補助金制度を設け、国内外の企業の活動も本格化。野外排せつの人数は政府の推計で、運動を開始した一四年十月の五億五千万人から、一八年一月には二億五千万人に半減している。

 

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