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【国際】

<危うい野心 エルドアンとトルコ>(下) 人気の源 成長路線に影

イスタンブール運河の建設予定地。キュチュクチェキメジェ湖から北(写真右)に向かって開削される

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 イスタンブール西部でマルマラ海を望む築四十年のマンション。浜辺を見渡す一階の窓辺で、元歯科医師のジャラト・コノクサルさん(73)は悲しそうに言った。「この風景が好きで買ったわが家を追い出されるのか。裁判に訴えたいが、政府の方針は変わらないだろう」

 一帯は、エルドアン政権が進めるイスタンブール運河の建設予定地。ボスポラス海峡と並行するように、マルマラ海と黒海を結ぶ全長四十五キロ(幅百五十メートル、深さ二十五メートル)の新たな運河だ。総事業費百五十億ドル(約一兆六千億円)の建設工事が早ければ来年にも始まる予定で、エルドアン大統領自身が「クレイジー」と呼ぶ計画が現実になろうとしている。

 十五年にわたって権力を握るエルドアン氏の人気の源泉は好調だった経済だ。外国から投資を呼び込み、地方に道路や住宅、病院を整備する公共建設事業を次々と実施。貧困層が徐々に中間層に引き上げられ、一人当たりの国内総生産(GDP)は三千ドルから一万ドルを超えるまでになった。恩恵にあずかった国民と建設業界が強力な支持者になるという仕組みだ。

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 新運河建設計画はそんな成長一辺倒の事業の集大成だ。十月末に一部開業した新空港や高速道路建設とも連動し、周辺の森林を開発して第二の都市を造ろうという壮大な構想だ。政権はボスポラス海峡の混雑を緩和し、通航料が新たな収益になると建設の意義を盛んにアピールする。

 これに対して野党「国民民主主義党(HDP)」のベイザ・ウストゥン議員は、建設予定地周辺の環境や黒海、マルマラ海の生態系に悪影響を与えると批判。「喜ぶのは建設運輸業界だけで、その他の国内産業は育っていない」と、エルドアン式の発展モデルに警鐘を鳴らす。

 八月には米国との関係悪化で通貨リラが急落。それを機に、慢性的な経常赤字や膨大な対外債務残高といったトルコ経済の脆弱(ぜいじゃく)さが表面化した。十月のインフレ率は25%に上り、経済成長を享受してきた国民生活に影が差す。

 リラ安は一服したが、今回の通貨危機で明らかになったのは、欧米からの投資に頼るトルコ経済にとって、エルドアン氏の言動がリスクと認識されたことだ。だが、欧米との対決を煽(あお)って国民の支持を得る手法から、弱腰は見せられない。エルドアン氏は、そんな矛盾を抱えている。

 エルドアン氏はトルコを経済で世界トップ10に押し上げる野心的な目標を掲げる。新運河完成予定の二〇二三年は、近代トルコ建国百年にあたる。節目の年を最高権力者として迎えるのを願うエルドアン氏にとって、経済運営の行方がアキレス腱(けん)になる。 (トルコ・イスタンブールで、奥田哲平、写真も)

 

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