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■書 評

だいにっほん、おんたこめいわく史

だいにっほん、おんたこめいわく史

[著者]笙野 頼子

一六八〇円 / 講談社


[評者]与那覇 恵子 (東洋英和女学院大教授)

■おたく文化に爆笑の鉄槌

 刺激的な作品である。脳が奇妙にブロックされたり、活性化されたりすることの楽しさとでもいおうか。その語りが、表現が、そしてその設定された世界が、私たちの日常的な日本語に、見慣れた風景に、滑り込んできたりはじき出されたりする、その感触もこの作品の醍醐味(だいごみ)である。

 著者の小説は、現在の制度を形づくっている深層の抑圧装置、つまり日本神話や明治以降の文壇・論壇が形成してきた無責任体制の抑圧的な「言説」との、常に闘いであった。『水晶内制度』では女尊男卑の女人国ウラミズモを設定して女性を抑圧する現代日本社会の構造を描き、『金毘羅』では日本宗教の成立を辿りながら国家に邪魔者扱いされる者の内面を浮き彫りにし、そこから国家と対抗する存在「極私的カウンター神」である「私」を創出した。

 本書では、ロリコンという言葉に代表される「少女」を搾取する構造で成り立っている現在のおたく文化や、それに迎合する文壇人、論壇人、文化人が痛烈に批判されている。

 個人を抑圧し共同体の連帯を無意識下に統制する社会・国家を構築する「にっほん」の独裁政党「おんたこ」。それは反権力を装いながら逆説的に権力の中枢に居座る者たちの集団である。簡単にいえば一部左翼や、反国家のポーズをとりながら国家に擦り寄る文壇人やおたくを指す。批判精神は強烈だが、堅苦しい作品ではない。2ちゃんねる的言語、伊勢の遊女の語り、小説内に挿入された「笙野頼子の後半生」、さらに作家自身の分身と誤解させる人物が入り乱れるその言語感覚に爆笑、苦笑、哄笑(こうしょう)しつつ読み、いつしか音読へと誘われる言葉のライブ感もある。

 また思考を形式化する言葉を、「日本語の文脈をずらして」「ロリ・フェミ」、「知と感性の野党労働者党(略して知感野労)」と笙野語に変換し、鉄槌(てっつい)を加える。捏造(ねつぞう)と曲解によって見えない形で私たちの意識を縛る透明な言葉のシステムをも粉砕させる壮快な小説である。


しょうの・よりこ 1956年生まれ。作家。著書に『金毘羅』『徹底抗戦!文士の森』など。


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