■書 評
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イエメンで鮭釣りを
[著者]ポール・トーディ著 小竹由美子訳
白水社
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2625円
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[評者]岩井 三四二
(作家)
■無謀な計画に翻弄されて
「すべてがまるで馬鹿(ばか)げているの。砂漠の国に鮭(さけ)釣りを導入しようっていうめちゃくちゃな計画。しかもそれが進行しているのよ」 と本文にあるように、これは砂漠の国イエメンの枯れ川で釣りを楽しむため、英国の鮭を移入しようという、無謀な計画に翻弄(ほんろう)された人々の話である。話を持ちかけられた水産学者のジョーンズ博士は、当初、非科学的だとして協力を拒む。しかしなぜか上司から強硬な命令が来て、ついには引き受けさせられてしまう。するとイエメンの大富豪やその代理人のハリエット嬢、首相直属の広報担当官など濃い面々が現れて、それぞれの理由で博士の尻を叩(たた)く。途中、アルカイダが計画を阻止しようとするが、鮭釣り名人の竿(さお)さばきの前に敗れ去ったりもする。 これだけでも相当面白いが、話の背後にある英国の世相がまた興味深い。役に立たないのにプロジェクト管理をして、手柄だけはとろうとする官僚や、傲慢(ごうまん)でずるがしこい政治家の部下などが跋扈(ばっこ)し、アラブの富豪はスコットランドに広大な土地つきの屋敷を所有して英国人の執事を使っている。草食系男子っぽいジョーンズ博士の妻は銀行勤めのキャリアで、スイスやドイツに長期出張して家になかなか帰ってこない。ハリエット嬢はイラクに派遣された婚約者の中尉にせっせと熱い手紙を書くが、中尉の返事は検閲されて墨塗りだらけで届けられる。 こういった細部が、誇張されつつも詳細に描かれているので、含み笑いで頬(ほお)をひくつかせながら最後のカタストロフまで一気に読まされてしまう。英国で四十万部売れたのも納得である。仕事で疲れた夜に最適の一冊。なおこの本、ユーモア小説の賞をもらっているが、釣りや信仰についてなど、大真面目(まじめ)に書かれた部分もある。果たして著者の本音がどのへんにあるのか、考えながら読むのも一興かもしれない。
Paul Torday 1946年生まれ。ビジネスマンとして30年あまり活躍し、小説第1作の本作で英ボランジェ・エブリマン・ウッドハウス賞を受賞。
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