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■書 評

チェチェン 廃墟に生きる戦争孤児たち

チェチェン 廃墟に生きる戦争孤児たち

[著者]Asne Seierstad オスネ・セイエルスタッド 著 青木玲 訳

白水社 / 2940円


[評者]林 克明 (ジャーナリスト)

■傷ついた魂の叫びを伝える

 「グローズヌイの天使」が原題だが、本書には清らかな天使は登場しない。

 ロシアからの独立をめぐって十五年も続くチェチェン紛争では、推定二十万人の死者・行方不明者が出ている。ロシア当局が報道陣を遮断するこの地に、ノルウェーの女性ジャーナリストが潜入し、傷ついた魂の叫びを綴(つづ)った。

 「グローズヌイ(チェチェンの首都)の天使」と呼ばれ、戦争孤児の世話をする女性と、子供たちの様子を軸に物語は展開する。ルポルタージュでありながら小説風の叙述が、かえって登場人物に生々しさを醸し出す。

 十二歳の孤児の少年は、鳩(はと)の首をひねり逆さにして血を抜き、羽根をむしり、棒を体に突き刺す。そして焙(あぶ)る。自分より小さい物乞(ご)いの子を恐喝して生き延びる。

 一つ上の姉は、叔父に盗みを命じられ、成果を持ち帰らないと火で焙った銅線で殴打されて凌辱(りょうじょく)される。その後、叔父から逃れ弟と一緒に孤児院に移れたが、いくら自分を責め、悔い改めようとしても盗癖が直らない。

 一方、著者はロシア側にも光を当て、地雷で失明した若いロシア兵士、モスクワでチェチェン人を襲撃したスキンヘッドの若者と家族などに心情を吐露させる。

 登場するロシア人たちはチェチェン人に対し「野性剥(む)き出しで、動物みたいだ。文明なんかなく、殺すことばっかり考えてる。むかつく連中だよ」と罵(ののし)る。

 罵りの言葉を口にする彼らが、幸せで穏やかな人生を送れないであろうことは容易に想像できる。ロシア人の傷も深い。

 戦争で人生を狂わされた人たちに明るい展望はない。それでも、孤児院で必死に働く人たちや子供の姿を見ていると、プラスは望めなくとも、マイナス100をマイナス50にしようという、切なくもすさまじい努力とエネルギーが感じられる。“天使”ではない彼らにこそ、私は深い共感を覚える。


Asne Seierstad 1970年生まれ。特派員として90年代のロシア、中国を取材。2003年にはイラク戦争を報道した。著書に『カブールの本屋』など。


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