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■書 評

資本主義はニヒリズムか

資本主義はニヒリズムか

[著者]佐伯 啓思・三浦 雅士

新書館 / 1890円


[評者]芹沢 一也 (社会学者)

■功利性を越える価値探る

 世界の真理や人生の意味などに思いをめぐらす(ことを得意とする)人文知は、効率性や収益性といった功利的価値とは相性が悪い。そうした価値の広まりが、人類を堕落させたと考えている節さえある。アメリカ型の金融資本主義がグローバルに展開され、その結果、百年に一度といわれる金融危機が生じた現在は当然、末世のごときに映るだろう。本書は、このような人文的感性の持ち主である碩学(せきがく)二人の対談を中心に編まれている。

 タイトルに「ニヒリズム」という言葉を含むことが示すように、本書の主調音となっているのは「絶対的な価値の喪失」である。そして、このような喪失状況を根源として、現代社会が諸問題の噴出(金融危機もそのひとつにすぎない!)に直面していることが、哲学、歴史、宗教など、人文知を総動員するかのように論じられていく。

 たしかに近代的な国家は、住民の生存への配慮を任としてきた。そうであれば、民主主義が発展するにしたがって、国家はますます国民生活への配慮を義務づけられるし、そうなると生活を超えた崇高な価値からはますます遠ざかる。かくして、近代が進行するほど価値が空洞化し、人びとの生から「目標」や「使命感」といった次元が欠落していく。政治は民意に迎合するポピュリズムに堕し、効率性や収益性が唯一の世俗的な価値として君臨する。

 ではどうするか? 三浦の発言で興味深かったのが「貴族制の再評価」を促している部分である。佐伯は「自己の世界を越えた広い世界に対して知識とか判断力をもっていくような精神」と肯定的に応じているが、本書が反時代的な書物となるためのひとつの方向性がここにあるとするなら、それは過去へのノスタルジーときっぱり手を切ったときだと思われる。だが、功利的な価値を不倶戴天(ふぐたいてん)の敵としているかぎり、そうした未来は決してやってこないだろう。


さえき・けいし 1949年生まれ。経済学者・評論家。著書に『現代日本のリベラリズム』など。 みうら・まさし 1946年生まれ。文芸評論家。著書に『出生の秘密』など。


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