第2回受賞者論文
子どもたちの表現力を豊かにする自然と音楽との出会い
板橋区立金沢小教諭 菊本 るり子
 本校の東門から校舎にかけて、桜並木がある。毎年春には4年生の子どもたちと、見事に咲き誇った花の下で、「さくらさくら」を歌うことにしている。降りそそぐ花吹雪や、桜の花を透かして見える青い空の美しさを感じながら歌う子どもたちの表情は、とても優しい。その歌声は、柔らかく、心の中に広がっていく。自然と音楽との出会いによって、子どもたちの心の内面が耕されることを願って、私は、授業に自然とのふれあいを取り入れてきた。青葉の季節には、学校の森で、緑を渡る風を頬に感じながらリコーダーを吹き、秋には、美しい紅葉の下で秋の歌を歌い、落ち葉を歌集にはさんで押し葉にした。
 このような取り組みを続けていた折、「心豊かな児童の育成〜身近な環境をいかして〜」というテーマで校内研究をすることになった。その中で、音楽を取り入れた実践を進めていく機会に恵まれた。
 本校は、都会の学校にはめずらしく校庭が広い。敷地内には、食べることのできる実のなる木を含む約2千本の樹木が植えられている。そんな恵まれた環境の中で、子どもたちが、樹木に対し、より親しみを持てるように、各学年2本の「学年の木」を決めている。子どもたちは一年を通して、その木に触れたり観察したりしている。さらに、2本のうち1本は実のなる木なので、おいしい果実を味わう幸せも経験することができる。担任は、さまざまな活動を通じて、「学年の木」を教えるのだが、子どもたちは、なかなか木の名前を覚えない。ある日の、校内研究の分科会で、「どうしたら子どもたちの中に、『学年の木』がしっかり根付くだろう」と考えていた時のことだった。ずらりと並ぶ木の名前を見つめているうち、ふと、「ラップにしてみたらおもしろそう」という思いが浮かんだ。そのつぶやきに、「そうだよ、そういうのが欲しかったんだよ」とその場にいたメンバーが賛成してくれた。こうして、金沢小オリジナルのラップの作成が始まった。
 歌詞の内容は、それぞれの学年の子どもたちと担任にアイデアを出してもらった。木の説明・ことわざ・駄洒落など、このラップを通して物知りになれたら、なお楽しい、ということで、とにかくなんでもいいから出してもらった。個条書きにされたたくさんの内容を、言葉を整理しリズムにのりやすいように修正し、ラップにまとめ、全職員のアドバイスをうけて、この曲はできあがった。時間はかかったが、本当に楽しい作業だった。
RAP OF KANAZAWA(抜粋)
 1年の木(1年の木)
東京都の木 イチョウ(YEAH!)
 早寝早起き(いいちょうし!)カンフーは(アチョー!)この木は(イチョー!)銀杏なる木だ(イ・チョ・ウ!)
 2年の木(2年の木)スモモ マジカルチェンジ(YEAH!) スモモという字を一文字変えて(ス・ガ・モ!)スモモという字を一文字変えて(ス・モ・ウ!)
スモモもモモもモモのうち(スモモもモモもモモのうち)スモモ(スモモ スモモ!)  3年の木(3年の木)
変わった木サルスベリ(YEAH!)
 猿もすべるよ(サルスベリ)おはだがつるつる(サルスベリ)
 さるさる(つるつる)さるさる(つるつる)サルスベリ(サルスベリ!)
 4年の木(4年の木)日本の心(サクラ!)
サクラ咲いたら(1年生)
 ソメイヨシノは(サクラだよ!)
♪さくら さくら♪(ここだけはとても美しく歌う)
 日本の心(サクラ!)
 5年の木(5年の木)
すてきなデザート キウイ(YEAH!)
 つるで伸びてく(キウイの木) キウイ一秒(けが一生) キウイ(キウイ! キウイ!)
 6年の木(6年の木)秋の味覚だよ(カキ!)モモクリ三年(カキ八年)
カキ食えば(鐘が鳴るなり 法隆寺!)甘いか 渋いか(カキ!)
 子どもたちと共に作りあげたラップは、演奏時間5分の大曲となった。果たして覚えることができるのか、という教師の心配をよそに、子どもたちは40分ほどで、リズムにのって口ずさめるようになった。「おもしろい!これ、すごくいいよ!」と反応は上々であったが、このようなリズムで体を動かす経験がなかったせいか、今ひとつのりが悪かった。そこで、のりのいい曲(「ミッキー・マニア」や「エボリューション・オレンジ」)にあわせて、体育館の大音響の中、足踏みしたり、いろいろなステップを踏んだり、踊ったり、全校で体を動かすことを何度か試みた。初めは恥ずかしそうな子どもたちだったが、徐々に動きが大きくなり、いつの間にか、前に立つ私のまねでなく、自分の動きで曲にのり始めた。こうなると、もう楽しくて、音楽の授業でも、「先生、ラップやろうよ!」と毎時間せがまれ、授業の終わりに汗だくになって演奏するようになった。
 「ラップ・オブ・カナザワ」のお披露目は、研究発表会での児童集会であった。照明を落とし、色とりどりのスポットライトが会場内を駆けめぐり、6年生によるキーボードと打楽器の伴奏にのって、子どもたちの声が体育館に響き渡った。体の動きにあわせて、床が波打つように感じられた。ライトに照らされた子どもたちの顔は、輝いていた。
 「ラップ・オブ・カナザワ」は、その後も「学年の木紹介集会」や「全校自然オリエンテーリング」などで演奏され、親しまれている。外部の方に聴いていただく機会にも恵まれ、生き生きとした子どもたちの表情を見ていただくことができた。また、4年生が、校庭のお気に入りの場所を見つけ、そこを紹介する「ラップをつくろう」という授業ではこちらがはっとするような楽しい発見がたくさんあり、すてきなラップができあがった。
 この取り組みを通して、子どもたちは、あれほど覚えられなかった「学年の木」の名前を、自分の学年のものだけでなく、12本すべて覚えてしまった。校庭の木の下で、ラップを口ずさむ姿も見られた。音楽を取り入れたことによって、身近な自然への関心や親しみの気持ちが広がったのであろう。歌詞に盛り込まれたさまざまな内容も、いつの日か懐かしく楽しみながら、思い出してくれるのではないだろうか。先日、地域の神社の祭で出会った卒業生が「先生、今でもラップ歌ってるよ。よその小学校から来た子にも教えたよ」と話してくれた。この曲の制作に携わった私たち教師だけでなく、子どもたちにとっても、心の宝物になっているような気がして、とてもうれしかった。また、ラップにのって、のびのびと体を動かす楽しさを知った子どもたちの音楽表現が豊かになり、リズム感も磨かれ、歌だけでなく、楽器の演奏が上達したことも大きな収穫であった。
 これからも、音楽を通して、豊かな心を育てること、生涯を通じて音楽と仲良くしていける下地をつくること、この二つを目標に、さまざまな試みを取り入れ、子どもたちと向き合っていきたい。

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