はじめに
子育てを取り巻く状況は、少子化、核家族化などの社会状況の変化により、保護者が子育てに不安や孤立感を感じたり、子ども同士が安心して友達とかかわって遊ぶ場や機会がなくなってきているなどの問題が生じている。そのような状況の中、幼稚園は地域の幼児教育のセンター的役割を果たすことが求められている。「子育て支援」という言葉が使われるようになって久しいが、日々の保育実践を通して、子どもを中心とした「子育て支援」を考えていきたいと思った。
気になるA児を理解することを通して
A児は、入園前より幼稚園に未就園児の集まりや姉の送迎時や施設開放などで混じって遊びにきていた。4月からは、姉と一緒に通園するようになった。当初は、姉とともに幼稚園に通うことにうれしさや喜びを感じているようであった。
入園から一カ月過ぎた頃から、登園時に泣きながら母親に連れて来られるようになった。母親は「登園途中で友達に会ったら恥ずかしくなったようで、泣いて行きたくないと言い出した」とか「機嫌よく幼稚園に行く支度をしていたが、家を出る時になって急に泣き出した」などその時々の状況を説明した。私は玄関までA児を出迎えに行き、抱きかかえて、保育室に連れて来ることが多くなった。保育室では、私の傍らで絵を描いて遊んだり、絵本を読んだりして過ごせるようにしながら、気持ちが落ち着くようにした。安定するまでは、その時々によって時間がかかったが、気持ちが安定した頃を見計らって、A児の気持ちを聞くと「お姉ちゃんが支度終わったから、早くしなさいと言われて嫌だった」「お姉ちゃんとお母さんが先に歩いていったから」など素直に私に話してくれた。母親とA児の話のズレをそのまま母親に伝えるのではなく、両者の思いを受け止めながら、幼稚園での一日の様子を丁寧に母親に伝えることで安心感をもってもらうようにした。同時に私は、A児の幼稚園での生活を振り返ることにした。A児は、学級の中で自分の遊びをするよりも、身近にいる姉のところに行き、一緒に遊んだり、姉の友達に遊んでもらうことが多いことに気付かされた。私はA児が自分の遊びを見付け、主体的に行動できるように支えるとともに、A児のペースで過ごせるように心がけて指導を改善していった。A児が安心して遊べる「絵を自由に描くことや折り紙をすること、絵本を読むこと」などができるように、場を設定し、教師が一緒に遊ぶことで、自分の学級で過ごす時間を保障した。同時に教師がいることで、同じ場にいる友達とのかかわりが生まれるよう橋渡しをしていった。そのことで、学級の中で自分の居場所もでき、姉の元に行って過ごす時間もほとんど無くなった。A児が安定して過ごしている姿を、母親に伝え、私がとらえたA児の思いや泣いて登園してきた時に話してくれた主張も話すようにした。母親は、私の話を真剣に聞いてくれた。
母親の思いや考えを理解することを通して
その後A児は、安心して幼稚園で過ごし泣いて登園してくることも無くなった。母親も「何であんなに泣き叫んでいたのか不思議です。そんなことは以前はなかったのでびっくりしました。」と当時のことを話した。日頃、降園時に、母親にA児の姿を丁寧に伝えていくことが、母親を安心させていくきっかけになったようだ。だが、A児が自信をもってのびのびと幼稚園生活を過ごせるようになるには、家庭での母親の協力がもっと必要だと私は考えていた。
幼稚園での姿を伝え、私の思いを伝えていったが、やはりA児の育ちを支えるには、教師側から視点を伝えるだけではいけないことに気付かされた。一学期の後半に、母親より「先生は大変だよね。いろんな子どもがいるし、一人だけを見ているのじゃないから。私にはできないよ」など気軽に話をしてくれる関係ができていた。母親と話をすることはできても、その奥にある思いや考えをしっかり理解することはできていないことに気付いた。母親と毎日かかわる身近な存在にある教師だが、一方的に話をする存在になってはいないかと考えたのである。母親から気さくに話し掛けてくれる話の内容は、「先生は大変だよね」と気遣ってくれるが、話す母親自身の「大変さや不安」も分かってほしいという思いもあるのではないかと感じたのである。
夏休みになった。幼稚園では施設開放や飼育物の世話など行っており、身近で安心して過ごせる場として開放している。私は、A児の母親には、「夏休みになっても、施設開放に遊びに来ながら、お話をする機会も作りましょう」と伝えた。夏休みに入って2、3日過ぎた頃、母親は、姉妹を連れて遊びに来た。私は、園内で姉妹が遊んでいる所を一緒に見ながら、ゆっくりと母親と話をする機会を持った。その中で、「姉妹同じように育ててきて、特に下の妹は手がかからず、姉に面倒を見てもらっていた。それが幼稚園に入るようになって、今までのようにはならず、どうしてなんだろうと感じた」ことや「家庭での過ごし方」など母親が抱えている不安や悩み、様々な思いなどを理解することができた。母親も、頑張っている。しかし、うまくいかない現実があることがわかった。母親の思いを理解して、支えていくことが大切であると実感した。母親と気軽に話をしたり、思いを受け止めていくと、母親自身に気持ちの余裕もできてきて、私がA児のことで気になっていることを母親自身が気付き「A児のペースで過ごせるようにしてみます」と自分から私に話してくれるようになった。
母親の思いや考えを理解して、支えていくことが、結果として気になっていたA児の育ちを支えていく原動力となっていくことが感じられた。
その後のA児は、自分の思いをしっかりと伝えていこうとするように変容していった。年長になり、雲梯(うんてい)、一輪車など様々なことに挑戦し、できなくても何度も繰り返し取り組んでいこうとする姿を見せるようになった。
終わりに
「子育て支援」は幼稚園が保護者のために何かを行うこと、ととらえられがちである。しかし、子どもと毎日かかわっている担任だからこそできる「子育て支援」があるのではないだろうか。日々の子どもの成長・変容を丁寧に保護者に伝えていくとともに、保護者の思いや考えも受け止めて、互いが連携を取り合うことが、子どもにとって成長を支えることになる。保護者を支え、子どもを支えていくことは、特別な何かを行うことではない、もっと身近で、日常的にできる「子育て支援」になることを実感した。
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