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【安保法制懇報告書 全文】

安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」報告書 全文(5)

 4、おわりに

 日本国憲法は、前文で「平和的生存権」を確認し、第13条で「生命、自由および幸福追求に対する国民の権利」を定めているが、これらの権利は他の基本的人権の根幹と言うべきものであり、これらを守るためには、主権者である国民の生存の確保、そして主権者である国民を守る国家の存立が前提条件である。また、憲法は、国際協調主義を掲げている。平和は国民の希求するところであり、国際協調主義を前提とした日本国憲法の平和主義は、今後ともこれを堅持していくべきである。その際、主権者である国民の生存、国家の存立を危機に陥れることは、そのような憲法上の観点からしてもあってはならない。

 わが国を取り巻く安全保障環境は、技術の進歩や国境を超える脅威の拡大、国家間のパワーバランスの変化等によって、より一層厳しさを増している。また、日米同盟の深化や地域の安全保障協力枠組みの広がり、国際社会全体による対応が必要な事例の増大により、わが国が幅広い分野で一層の役割を担うことが必要となっている。このように、安全保障環境が顕著な規模と速度で変化している中で、わが国は、わが国の平和と安全を維持し、地域・国際社会の平和と安定を実現していく上で、従来の憲法解釈では十分対応できない状況に立ち至っている。

 憲法第9条の解釈は長年にわたる議論の積み重ねによって確立したものであって、その変更は許されず、変更する必要があるならば、憲法改正による必要があるという意見もある。しかし、本懇談会による憲法解釈の整理は、憲法の規定の文理解釈として導き出されるものである。すなわち、憲法第9条は、第1項で、わが国が当事国である国際紛争の解決のために武力による威嚇または武力の行使を行うことを禁止したものと解すべきであり、自衛のための武力の行使は禁じられておらず、国際法上合法な活動への憲法上の制約はないと解すべきである。同条第2項は、「前項の目的を達成するため」戦力を保持しないと定めたものと解すべきであり、自衛やいわゆる国際貢献のための実力の保持は禁止されていないと解すべきである。「(自衛のための)措置は、必要最小限度の範囲にとどまるべき」であるというこれまでの政府の憲法解釈に立ったとしても、「必要最小限度」の中に個別的自衛権は含まれるが集団的自衛権は含まれないとしてきた政府の憲法解釈は、「必要最小限度」について抽象的な法理だけで形式的に線を引こうとした点で適当ではなく、「必要最小限度」の中に集団的自衛権の行使も含まれると解すべきである。

 個別的自衛権の行使に関する見解としては、自衛権発動の3要件を満たす限り行使に制限はないが、その実際の行使に当たっては、その必要性と均衡性を慎重かつ迅速に判断して、決定しなければならない。集団的自衛権については、わが国と密接な関係にある外国に対して武力攻撃が行われ、その事態がわが国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるときには、わが国が直接攻撃されていない場合でも、その国の明示の要請または同意を得て、必要最小限の実力を行使してこの攻撃の排除に参加し、国際の平和および安全の維持・回復に貢献することができることとすべきである。そのような場合に該当するかについては、わが国への直接攻撃に結びつく蓋然性が高いか、日米同盟の信頼が著しく傷つきその抑止力が大きく損なわれ得るか、国際秩序そのものが大きく揺らぎ得るか、国民の生命や権利が著しく害されるか、その他わが国への深刻な影響がおよび得るかといった諸点を政府が総合的に勘案しつつ、責任を持って判断すべきである。実際の行使に当たって第三国の領域を通過する場合には、わが国の方針としてその国の同意を得るものとすべきである。集団的自衛権を実際に行使するには、事前または事後の国会承認を必要とすべきである。行使については、内閣総理大臣の主導の下、国家安全保障会議の議を経るべきであり、内閣として閣議決定により意思決定する必要があるが、集団的自衛権は権利であって義務ではないため、政策的判断の結果、行使しないことがあるのは当然である。

 軍事的措置を伴う国連の集団安全保障措置への参加については、わが国が当事国である国際紛争を解決する手段としての「武力の行使」には当たらず、憲法上の制約はないと解すべきである。参加に関しては、個々の場合について総合的に検討して、慎重に判断すべきことは当然であり、軍事力を用いた強制措置を伴う国連の集団安全保障措置への参加に当たっては、事前または事後に国会の承認を得るものとすべきである。

 いわゆる「武力の行使との一体化」論は、安全保障上の実務に大きな支障となってきており、このような考えはもはやとらず、政策的妥当性の問題と位置付けるべきである。PKO等や在外自国民の保護・救出、国際的な治安協力については、憲法第9条の禁ずる「武力の行使」には当たらず、このような活動における駆け付け警護や妨害排除に際しての武器使用に憲法上の制約はないと解すべきである。

 このほか、武力攻撃に至らない侵害への対応については、「組織的計画的な武力の行使」かどうか判別がつかない侵害であっても、そのような侵害を排除する自衛隊の必要最小限度の国際法上合法な行動は憲法上容認されるべきである。また、自衛隊の行動については、平素の段階からそれぞれの行動や防衛出動に至る間において、権限上の、あるいは時間的な隙間が生じ得る可能性があることから、切れ目のない対応を講ずるための包括的な措置を講ずる必要がある。以上述べたような考え方が実際に意味を持つためには、それに応じた国内法の整備等を行うことが不可欠である。

 さかのぼってみれば、そもそも憲法には個別的自衛権や集団的自衛権についての明文の規定はなく、個別的自衛権の行使についても、わが国政府は憲法改正ではなく憲法解釈を整理することによって、認められるとした経緯がある。

 こうした経緯に鑑みれば、必要最小限度の範囲の自衛権の行使には個別的自衛権に加えて集団的自衛権の行使が認められるという判断も、政府が適切な形で新しい解釈を明らかにすることによって可能であり、憲法改正が必要だという指摘は当たらない。また、国連の集団安全保障措置等へのわが国の参加についても同様に、政府が適切な形で新しい解釈を明らかにすることによって可能である。

 以上が、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」としての提言である。政府が安全保障の法的基盤の再構築に関して、この提言をどのように踏まえ、どのような具体的な措置を取るのか、それは政府の判断に委ねられるのは言うまでもないが、懇談会としては、政府が本報告書を真剣に検討し、しかるべき立法措置に進まれることを強く期待するものである。

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