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【探訪 都の企業】

<奮闘編>【4】原田左官工業所(文京区千駄木) 『壁に表情』多彩な提案

2009年1月9日

漆喰を塗る手本を見せる原田左官工業所の原田宗亮社長

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 白色で粘り気のある漆喰(しっくい)の塊を、こてを使ってぐいっと壁に押しつける。スーッとのばすと、無表情だった壁に微細な陰影が浮かび上がった。

 原田左官工業所に併設した、壁塗りの練習場に立つ原田宗亮社長(34)は三代目だ。自らこてを握って、壁面の演出を研究する。

 伝統的日本家屋の壁を塗るだけでなく、六本木の東京ミッドタウンに入る欧風レストランなどの壁も仕上げる。「正解のない、手間のかかる左官の仕事を積み上げてきた結果」と笑顔をみせた。

 一九九〇年代初頭のバブル景気の好況が、今の多様な仕事を受け入れる素地を作った。それまで男性ばかりの職人の職場だったが、あまりの忙しさに、事務スタッフの女性を現場に応援で出した。女性スタッフは、独特のセンスで漆喰に色を付け、凸凹のある壁にどんどん挑戦した。このアイデアが都心のカフェなどに採用された。

 「根っからの職人でなく、経営にも重心を置いていたことが、顧客ニーズをキャッチする点で良かったのではないか」と原田社長は振り返る。

 伝統的な仕事に新たな手法を取り入れることを、ためらう職人は少なくない。とくにビルなどの壁塗りは面積が大きく、建物全体の雰囲気を左右する。発注した人の頭の中のイメージを探りながら仕事をすることもあり、手間や時間がかかる。このため多くの工務店が敬遠してきた。

 難しい注文を受けることで磨かれたのが「提案力」。「フランス風の壁がほしい」というあいまいな発注でも、その雰囲気を練習場で探って提案する力が付いたという。

 だが、今は世界的な不況の波で、ファンドの資金が一斉に引き揚げた日本の建設業界は激震に見舞われている。建設会社などが次々と倒産する厳しい経営環境に直面した。

 「昨年十一月ごろは本当に仕事がなく、焦った」と原田社長はいう。十二月になって、新規着工の受注からリフォーム需要への対応に営業の重心を移した。新規建設は減ったが、内装を変えるリフォームの仕事はまだまだ需要があると判断したからだ。

 漆喰の持つ独特の風合いや高級感は根強い人気がある。室内の湿気を緩やかに調節する「吸放湿性」や空気中の有害成分を吸着する性質は健康志向のニーズにもこたえる。金融危機の衝撃を柔軟な発想と伝統の力で受け止める。この姿勢こそが逆風の時代を乗り切る匠(たくみ)の技といえそうだ。

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■地域への思い

 「千駄木は濃密な人間関係のある下町と、最先端の都会的なライフスタイルを追う山手の中間に位置していると思う。それは地理的に双方に距離が近いということだけでなく、感覚的な面からも地の利があるということだ。手作業の泥臭さと、センスの両方が生かせる。こんな左官の仕事を大事にしていきたい」 (原田社長)

 

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