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【探訪 都の企業】

<商店街編>【上】人形町商店街(中央区) “つかみ金”で使う気に

2009年6月29日

商店街の利用者が参加して行われている現金つかみ取りイベント=東京都中央区日本橋人形町で(中西祥子撮影)

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 中年女性が気合を入れ、腕まくりした右腕をアクリル製の透明の箱に突っ込む。彼女が折り重なった紙幣をわしづかみにすると、通り掛かった買い物客らから「おおーっ」と、ため息交じりの低い歓声が上がった。

 江戸時代創業の和食店、和菓子店、刃物専門店…。老舗が軒を連ねる東京都中央区の人形町商店街。お中元シーズン恒例の「現金つかみ取り」福引イベントが開催中(七月十日まで)だ。このイベントが始まったのは一九九七年夏。日本の金融史に重く刻まれた、旧北海道拓殖銀行、旧山一証券などの大型経営破綻(はたん)が相次いだ年だった。

 それまでの福引の景品は、軽自動車(一等)や観劇券などで、評判は低調だった。同商店街協同組合の重盛永造理事長(64)は「使い方を決めてしまう商品より自由な現金の方が受けがいい。賃金が下がる中、どんな人も喜んでくれる」と現金戦略の効用を語る。

 政府が「百年に一度」の危機に対応して導入した総額二兆円の「定額給付金」。これに先立つ十二年前から現金つかみ取りという「“非”定額給付金」を展開してきた南谷康夫副理事長(52)は「政府が、われわれにようやく追いついたという思いだ。このイベントをきっかけに、他の地域から繰り返し来てくれるお客さんが増えた」と自信を深める。

 つかみ取りは特(一)等だと一万、五千、千円の紙幣が入った箱から、五秒間で一回、取れた分だけもらえる。二等は千円札、三等は百、五十、十円の硬貨だ。会場では、埼玉県春日部市から来た中年女性が三等の当たりくじを引き、硬貨で千六百五十円をつかみ取った。この女性は「この辺でご飯を食べて帰ります」とうれしげだ。

 空くじなしも特徴の一つ。一回の福引でつかみ取りから外れても、五十円が“給付”される仕組み。十三回福引を引いて、すべて外れた東京都府中市の主婦(65)は、計六百五十円を受け取って「去年は三等だったんですけど。でも、これでお茶を飲んで帰ります」と笑顔だった。商店街を訪れた客たちが、積極的にお金を使う姿勢が際立った。

 不況による先行き不安から消費を控え、さらに景気悪化に拍車がかかる。悪循環が日本経済を覆う中、下町の商店街の取り組みは、確実に消費者の心をつかんでいる。

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 衆院選挙を控え、政府・与党が景気対策を急ぐ中、小さな店舗企業の集合体である商店街がさまざまな取り組みに挑戦している。“都のお店”が工夫を重ねながら生き抜く姿を追った。

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■エコノミストの目 

 「現金つかみ取りは、政府の給付金以上の潜在的な効果を持っている。意図せざる収入は『使おう』という気になりやすい。金融機関の口座に振り込まれる定額給付金とは違い、現金で手渡されればなおさらだ。福引をしなければ当たらないというゲーム性は、巣ごもりがちな消費者を外に連れ出すという相乗効果もある」(第一生命経済研究所・永浜利広主席エコノミスト)

 

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