東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 特集・連載 > 探訪 都の企業 > 記事

ここから本文

【探訪 都の企業】

<東京ロケット編>【上】タシロイーエル(大田区南六郷) 宇宙へ飛ぶ、武者震い

2011年10月10日

NC旋盤の刃を交換するタシロイーエルの福田晃久さん(中央)。左は田代信雄社長、右は島田裕介さん=東京都大田区で(坂本亜由理撮影)

写真

 東京都大田区に日本の航空宇宙産業を支える企業がある。精密加工の「タシロイーエル」。従業員は十二人と少ないが、H2Aロケットの部品作りを始めて十年余りが過ぎた。

 「日本のものづくりが中国などに対抗し生き残れるよう若手に高度な技術を伝える」

 タシロイーエルの強さの背景にあるのが田代信雄社長(54)の経営哲学だ。精密加工の分野は中高年の経験者が重宝されがちだが、従業員のほぼ半数が二十〜三十代と若い。

 その一人が入社四年目の島田裕介さん(33)。会社に入って半年後からロケット部品作りを続けてきた。

 タシロイーエルが手掛けるロケット部品は現在、五種類ほどある。このうちの一つはニッケルなどの合金「耐熱鋼」でできた円柱形の金属片(直径約二センチ、高さ約五センチ)を、コンピューター制御の切削機「NC旋盤」の刃で削り穴を開けるなどして作る。ただ耐熱鋼は高熱を出すため長時間削れば刃は傷み、穴の大きさなどの仕上がりに誤差が生じる。

 許される誤差は約〇・〇一ミリ。だがコンピューター任せでは誤差の発生を防げない。重要になるのは従業員の技術力。島田さんは神経を研ぎ澄まし音や振動に異変を感じたら削る手順を再調整する。

写真

 島田さんと同じ入社四年目の福田晃久さん(23)も「会社に入った直後は機械を壊したり、いろいろ失敗した」と打ち明ける。それでも田代社長は入社半年後の若者に部品作りを任せてきた。競争に勝ち残るためだ。

 「良い物を作り人を育てるにはコストがかかる。小さな会社が両方をやるのはリスクが高い。だが、そこしか道はない」と田代社長は強調。その上で「大概の人がもうからないと思う仕事もこつこつやってきた。それが評判につながった」と振り返った。

 そんな田代社長に仕事を任された島田さんは「意気に感じた。苦労して作ったものが宇宙を飛ぶと思うと武者震いした」と話す。部品の詳細な使われ方は「(機密で)知らされない」が、円柱形の耐熱鋼を削り作った部品の穴には爆薬が入れられ、ロケットの切り離しに使われる。

 大田区によると一九八八年に約八千百あった区内の町工場は二〇〇八年に約四千三百に半減。下町の町工場を取り巻く環境は厳しい。それでも田代社長は「製品が営業マン。良い物を作れば宇宙からだって仕事は来る」と若者に語りかける。

    ◇

 大田区の中小企業がロケット開発に夢をかける−。池井戸潤さんの小説「下町ロケット」が直木賞を受賞し、日本のものづくりがあらためて注目されている。航空宇宙産業を支える「都の企業」を紹介する。

 

この記事を印刷する

PR情報