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【探訪 都の企業】

<町田編>【上】水で1000回書ける紙 木と字の神林

水で書いて繰り返し使える習字練習用紙「水書きグー」を手にする「木と字の神林」の神林金哉会長(左)と隆成代表=東京都町田市で(由木直子撮影)

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 用紙に筆を走らせると墨色の筆跡が浮かび上がった。だが、書いた文字は数分で消え、やがて元の白紙に戻った。手品の道具のようなこの用紙は「木と字の神林(かんばやし)」(町田市つくし野)が開発した「水書きグー」だ。

 水の量や気温にもよるが、約十分で再び文字を書けるようになる。筆につけたのは、ただの水。神林金哉(きんや)会長(79)は「よく『何か特別な液体を使っているんだろう』と聞かれます」と笑う。

 原理はすりガラスと同じ。紙の表面に凸凹があり、乾いた状態では光を反射し白っぽく見える。だが水がつくと光が通り、下地の色が透けて発色したように見える。乾けば元通りだ。

 紙は破れたり、よれたりしやすい欠点があった。神林さんらは裏面にプラスチックのシートを張り合わせることを考案。千回以上、繰り返し使えるようにした。価格は一般的な半紙サイズ(縦三十三センチ、横二十四センチ)が三枚セットで三千円(税抜き)だ。

 一九六六年に神林会長が設立した会社は木彫りの看板作りなどを営んできた。社員は弟の隆成代表(66)も加え計六人。町田はテレビドラマの収録が行われる緑山スタジオ(横浜市青葉区)に近く、以前は江戸や昭和の町並みが舞台となったテレビドラマの看板を手掛けたこともあった。

 筆文字をなりわいとするうち、神林会長は「上手な字を書きたい」という世間のニーズの高さに気付いた。だが書道は服や机が墨で汚れないよう神経を使うイメージが強く、墨の準備や用具の片付けも大変だ。

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 「気軽に書道に親しんでもらう方法はないか」と考え、目を付けたのが、昔から土間や路上で行われていたという水で字の練習をする方法。大手製紙メーカーの協力を受け、水書きグーを三年がかりで完成させた。発売したのは二〇〇九年。今では年約一千万円を売り上げるまでになった。

 「書道は心を落ち着けて墨をするところから始まる。水で書くのは邪道だ」との批判もあるが、神林会長は「水かきグーで夢中になって書くうち、とめ、はね、はらいの基礎が身につく」と利点を強調した。

 二〇年の東京五輪を機に和の文化が見直され、筆文字への注目も高まるとみる神林会長。「これからが勝負」と意欲をみせた。

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 思いついたアイデアを軽いフットワークで製品化するのは中小企業の得意分野。今回は町田市を拠点に子どもたちに人気の製品を開発した二社を紹介する。

 

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