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【放射線識者はこうみる】

 関東各地の大気中の放射線量は最大値よりは低いものの、平常値にまでは下がっていない。福島第一原発の事故が収まり、日常に戻るまでにはまだまだ時間を要しそうだ。今回は、これまでに解説を続けてきた放射性物質に関連するテーマの中でも関心の高い「内部被ばく」「発がんリスク」「海洋汚染」について、それぞれ詳しい専門家の研究結果、見解をまとめた。

<内部被ばく>尿や便で排出も

放医研元主任研究員 本郷 昭三氏

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 Q 被ばくとは。

 A 放射線を体の外側から浴びるのが「外部被ばく」。福島第一原発の事故で、主に市民に関係するのは、放射性物質を体内に取り込んで体内で放射線を浴びる「内部被ばく」だろう。

 Q 放射性物質の付いた食べ物を口にすると内部被ばくする。

 A 野菜の表面に付いた放射性物質は洗えば、ある程度落ちる。問題は今後、地面に落ちた放射性物質をどれぐらい農作物が根から取り込むかだ。

 Q どう取り込むのか。

 A 土壌成分によって異なるが、セシウムは土に吸着しやすい。キノコ類や豆類、地衣類などのように、内部にため込み濃縮するものがある。チェルノブイリ事故では、地衣類のコケにセシウムが濃縮し、コケを餌とするトナカイの肉を食べた人が内部被ばくした。

 Q 体内に入ると排出されないのか。

 A 尿や便によって、かなりの部分は排出される。放射性物質の半減期とは別に、排出によって量が半分になる期間を生物的半減期と呼ぶ。人の場合、放射性ヨウ素は約120日、セシウムは約110日。年代が若いほど代謝がよく、早く半減する。個人差もある。

 Q 体内に放射性物質が入った人が近くにいると、周りの人も被ばくするのか。

 A 満員電車ではどうか計算した研究者がいたが、無視できる程度だった。

 Q 内部被ばくをどうやって計算する。

 A 外部被ばくは大気中の放射線量や、放射性物質からどれぐらいの距離にいたかで計算する。体内で作用する内部被ばくについてはまず、成人は50年間、先の長い子供は70年間、放射線を浴び続けると仮定する。その上で、放射性物質を体内に入れた時から浴び続ける線量を推定して通算する。

 専門的には預託実効線量という概念だ。半減期も加味しているが、実際は回復効果もあり、数字よりも影響は小さくなるはずだ。

 Q 人体への影響はどう評価する。

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 A 人が受ける放射線量は1年単位で計算することが多い。放射性ヨウ素が付着した野菜を食べて1年間に1ミリシーベルト内部被ばくしたと仮定し、この間に2ミリシーベルトの外部被ばくをしたら、足して計3ミリシーベルトとする。翌年に外部被ばくをしても加算しない。

 Q 影響は乳児の方が大きいのか。

 A チェルノブイリ事故は、成人より大きかったようだ。動物実験でもそのようだ。

 ほんごう・しょうぞう 1944年生まれ。千葉大文理学部自然科学科卒。66年に放射線医学総合研究所に入所して18年間、内部被ばくの研究に取り組み、環境衛生部の主任研究員などを務めた。放射線の線量計算の研究でも高い評価を得ている。内部被ばく線量計算システム(IDES)の開発に携わり、日本原子力研究開発機構のシステム開発委員も歴任した。2004年の定年退職後も、同研究所の主任技術員などを務めている。富山県出身。

<発がんリスク>被爆者調査100ミリシーベルトが境

広島がんセミナー 理事長 田原 栄一氏

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 Q 人が放射線を浴びて被ばくした場合、100ミリシーベルトを健康に影響が出る目安にしているが、根拠は何か。

 A 1950年代から続けている広島・長崎の被爆者の追跡調査から明らかだ。被ばくした人と、被ばくしていない人の集団を比較し、がんの発症者(白血病は死亡者)がどれぐらい増えたかを、受けた放射線量別に推定している。白血病以外では、100ミリシーベルト未満では1・8%だが、100〜200ミリシーベルト未満で7・6%となり、線量が増えるほどリスクが増える。白血病でも同じことがいえる。

 Q 調査結果を見ると、5〜100ミリシーベルト未満でもわずかにリスクはあるのでは。

 A 100ミリシーベルト未満の被ばくが要因で増えたとみられる白血病の死亡は3万387人中わずか4人。その他のがんは、被ばく後20年という長い潜伏期間があることを考えた方がいい。

 Q なぜ潜伏期間があるのか。

 A 放射線だけでなく、ほかの要因が絡み合って、人はがんになる。1つの細胞につき7つぐらいの遺伝子異常が生じた場合、その細胞ががんの芽になって増殖するからだ。

 がんの原因の3割は喫煙、3割は食べ物。被ばくしていない人でも、小さい時の食事、20代、30代のライフスタイルで遺伝子異常が積み重なると、40代以降にがんになる確率が高まる。

 Q 放射性物質でリスクがわずかに高まったとしても、生き方次第で発がんを回避することは可能か。

 A そう言っていいと思う。がんは一種の生活習慣病だ。

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 Q そもそも、放射線はなぜがんを誘発するのか。

 A 放射線は細胞のDNAの鎖を完全に切る殺傷作用を持つ。食べ物の発がん性物質の場合は、その物質から作られたタンパク質が、DNAの活動を阻害するので違いがある。骨髄や腸管など、細胞分裂の盛んな場所が、放射線の影響を受けやすい。

 たはら・えいいち 1936年生まれ。広島大医学部医学科長や、米カリフォルニア大サンディエゴがんセンター客員教授などを歴任。2001年から05年まで、日米共同の放射線影響研究所の研究担当理事を日本人として初めて務めた。10歳の時には広島で原爆を体験。死体が焼けるにおいの記憶で、今も焼き魚やスルメを食べられないという。

 <被爆者の追跡調査> 米国学士院は終戦直後の1947年、広島・長崎の被爆者の健康影響を追跡調査するため、両市に原爆傷害調査委員会(ABCC)を設立した。現在も75年に日米政府の共同出資で両市につくられた放射線影響研究所が引き続き、調査にあたっている。被ばくしなくても、がんや白血病にはかかる。被ばくによる発症と死亡のリスクを割り出すにはまず、被ばくしていない集団の発症率と死亡率と比較し、増加したとみられる推定過剰数を算出する。推定過剰数を発症(死亡)者数で割った寄与率で、被ばくの影響で増えたとみられる人数の割合を示す。

<海洋汚染>長期の監視必要

東京海洋大名誉教授 水口 憲哉氏

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 Q 海水から高濃度の放射性ヨウ素とセシウムが検出された。水産庁は魚介類への影響は小さいと説明しているが、大丈夫か。

 A 現段階での安全宣言は時期尚早だ。安全な状態になるまで原子炉への注水を止められず、海への汚染水の流出防止は困難だ。海洋汚染は長期化する可能性が高く、安全とはとても言えない。

 Q 汚染が進むとどんな影響が。

 A 流出した放射性物質は主に放射性ヨウ素とセシウムだが、2つを分けて考える必要がある。

 Q 放射性ヨウ素について説明を。

 A ワカメやノリ、ヒジキなどヨウ素を内部に取り込む性質を持つ海藻類に影響する。ただ、放射性ヨウ素は半減期が8日で、約2カ月で100分の1に減る。流出さえ収まれば心配はいらなくなる。

 魚への影響はないと考えていい。餌のプランクトンや海藻を介して取り込まれても、半減期が短く、蓄積の前に消滅してしまうからだ。

 Q セシウムはどうか。

 A 半減期が30年と長く、海水やプランクトンを通じて魚の体内に取り込まれると、海水よりも高濃度になる可能性がある。海藻類はヨウ素のようには取り込まないが、高濃度の汚染海域のものには注意が必要だ。

 Q 水産庁によると、セシウムは魚のえらから排出されて50日で半減する。

 A 排出されても、体内に残る分もある。魚を食べると、人体に影響が出るほどの汚染が進むか、まだ判断できない。捕らえた魚の検査を長期間、広範囲で続けるしかない。

 Q 過去のデータから推測できないか。

 A 旧ソ連のチェルノブイリは内陸部の事故で、大量の放射性物質が海に流出したのは初めて。今回の海洋汚染に世界中が注目し、懸念を示している。

 Q 放射性物質はどう拡散するのか。

 A 原発から海流によって南に流される。千葉・銚子沖で黒潮と合流し、太平洋に拡散していく。問題になるとすれば、福島県から千葉県にかけての沿岸部だろう。

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 Q 銚子沖のカタクチイワシから1キロ当たり3ベクレルのセシウムが検出されている。

 A 今回の事故に由来することは明白だ。1キロ当たり500ベクレルの暫定規制値を下回るが、高濃度のセシウムが流出する前の数値なので、今後の変動を確認する必要がある。

 Q 銚子沖より南の漁場は安全か。

 A 魚は回遊する。一概に安全とは言えない。原発付近で汚染された魚が、別の海域に移ることもある。

 みずぐち・けんや 1941年生まれ。東京海洋大名誉教授(資源維持論)。人と魚と水の関係学専攻。著書に「海と魚と原子力発電所」(農文協)など。青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場から海に流れ出た放射性物質について調べ、三陸沿岸を南下したという研究結果をまとめた。現在は千葉県いすみ市に住み、太平洋沿岸地域の漁業調査を行っている。


<メモ>ベクレルとシーベルト

 放射性物質が放射線を出す能力を放射能といい、その大きさを表す単位がベクレル。1秒間に放射性物質の原子核一つが崩壊し、放射線を出す能力を1ベクレルという。放射線が人体に与える影響の度合いは、シーベルトで表す。

 放射能に汚染した食品や水を体内に取り込んで内部被ばくした場合には、国際放射線防護委員会(ICRP)が定める換算式で、ベクレルをシーベルトにする。

 換算式は放射性物質ごとに異なる。式を用いると、放射性ヨウ素1万ベクレルの内部被ばく量は0.22ミリシーベルトで、セシウム1万ベクレルは0.13ミリシーベルト。内部被ばくで長期間、放射線の影響を受けることを考慮し、大人は50年間、子供は70年間のトータルの被ばく量を示す。

<メモ>半減期

 放射性物質の原子核は不安定な構造をしており、放射線を出しながら安定した別の種類の原子に崩壊(変化)していく。原子核の半分が崩壊するまでの時間が半減期で、放射性物質ごとに異なる。

 放射性ヨウ素131の半減期は8日。つまり、8日間で半分に、16日間で4分の1に減る。セシウム137の半減期は30年で、60年でようやく4分の1に減る。福島第一原発の敷地内の土壌から検出されたプルトニウムは半減期が2万4000年と長期間、放射線を出し続ける。

 福島第一原発の爆発事故が起き、日ごろ耳にしない原子力関係の用語が使われ、放射能や被ばくの知識が欠かせなくなりました。東京新聞は3月16日付以降、放射性物質の人への影響などについて、最終面で8回にわたり、Q&A方式で掲載してきました。

 主な取材先は、厚生労働省や農林水産省、原子力安全委員会、食品安全委員会、放射線医学総合研究所(放医研)、放射線影響協会、日本アイソトープ協会、農業環境技術研究所、日本産科婦人科学会、東京大学、京都大原子炉実験所などの専門家です。

 日本では初めての大規模な原発事故で、専門家の間でも見解が分かれるケースがみられました。複数の意見をまとめていたため、取材先を必ずしも明記していませんでしたが、今回はテーマ別にそれぞれ詳しい専門家から話をうかがいました。 (原発事故取材班)