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【公共事業を問う】

官僚の傲慢 地域滅ぼす 国交省河川局OB 宮本博司さんに聞く

2009年12月31日

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 二〇一〇年度予算案で公共事業費18%削減を打ち出した鳩山政権。その中核となるのがダム建設の抜本的な見直しだ。堤防の補強や洪水を河川沿いの遊水地に誘導する「流域治水」など、「ダムに頼らない治水」は実現するのか。国土交通省の技術系キャリアとして河川局で長くダム建設にあたってきた宮本博司さん(57)=京都市=に、ダム事業の問題点と河川行政のあり方を語ってもらった。 (聞き手・北川成史)

 −ダム事業の問題点は。

 これまでは地元住民が反対しても推し進めてきた。「決めたからにはやる。日本全体を考えている自分たちは正しく、地域の犠牲はやむを得ない」という役人の傲慢(ごうまん)な発想があった。

 私は一九八七年から二年半、河川局開発課で全国のダムの調査と計画を担当したが、実際はペーパーを見ているだけだった。九〇年に岡山県の苫田(とまた)ダムの工事事務所長になって初めて現実の問題が分かり、ショックを受けた。

 −どんな問題があったのか。

 水没予定五百戸のうち七十戸が反対していた。移転が迫っても泣いてばかりで荷造りが進まなかった。県が期限を区切って、移転を承諾した人に協力金を出すという切り崩しに出るなど、地域の人間関係はぐちゃぐちゃになった。何年かで異動する役人には住民の憤りが分からない。疲れ果てた住民は最後は仕方なく移転する。ダム事業ではそんなことが繰り返されてきた。

 −ダムの必要性は。

 高度成長期と違い、今は水の需要は増えていない。また、洪水対策でもダム以外にやるべきことがある。明治以降、治水は雨を川に集める方法を採ってきた。だから堤防が切れると壊滅的な被害になる。堤防の補強や避難態勢の確立を急ぎ、根本的には「流域治水」に転換すべきだ。

 −流域治水とは。

 例えば川沿いの低い場所は居住を制限し、普段は公園や農地として使い、洪水時は水をためる遊水地にして、地域に洪水のエネルギーを分散する。河川局でもずっと議論しているのに、従来のダム事業の否定になるため方向転換しない。

 −ダム事業は今後も続くのか。

 もしダムを造るというなら、計画段階から地域を交えて必要性を議論するべきだ。国がデータをごまかしていないかのチェック組織も必要。前原誠司国交相の八ッ場ダム(群馬県)中止発言は、従来の進め方をひっくり返す強い意思表示として評価した。ただ、その後が続いていない気がする。

 みやもと・ひろし 京都府生まれ。京大大学院修了後、1978年旧建設省に技術系キャリアとして入省。苫田ダム工事事務所長、長良川河口堰(ぜき)建設所長、淀川河川事務所長などの現場を歴任。河川局防災課長だった2006年に退職した。実家の会社を継ぐ傍ら、07年8月から2年間、淀川水系の河川整備を審議する国交省近畿地方整備局の諮問機関「淀川水系流域委員会」の委員を公募で務めた。

 

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