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【公共事業を問う】

【第二部】揺らぐ利権(4) 政・官主導 ツケは農家 造成地荒れ、負担滞納続々

2010年4月11日

(左)造成したものの雑草が茂る耕作放棄地=栃木県那須烏山市で(右)土地改良区の事務所前に立つ渡辺美智雄元副総理の銅像=同県那須塩原市で(コラージュ)

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 栃木県北東部の大田原など三市一町の丘陵地帯に広がる国営塩那台地土地改良区。事務所の傍らに「箒流(そうりゅう)豫大(よだい)」と彫られた石碑が立つ。那珂川支流の箒(ほうき)川の水が台地を潤すさまをイメージした書の主は、自民党の元大物渡辺美智雄。「ミッチー」の愛称で親しまれ、農相や副総理を歴任した。

 農林族の重鎮でもあった渡辺は一九八二年から九五年に死去するまで、県土地改良事業団体連合会(土地連)会長も務めた。「農林水産省や県にかなり無理を言って予算付けしてきた」。改良区が作成した「塩那台地事業誌」には、九二年の完工式での渡辺の祝辞が紹介されている。

 「毎年、渡辺さんから『塩那台地の事業費が満額付いた』と個所付けを伝える手紙が届いた」。土地改良区の元理事で、渡辺の後援会支部長を務めた形山一雄(79)は振り返る。「渡辺さん様々(さまさま)だったんだが…」

 事業は一九七四年から十九年間かけて行われ、東京ディズニーリゾート七個分の千四百八十一ヘクタールに農地やかんがい用水を整備。総事業費百八十億円のうち九割を国や県、市町が負担。受益農家が一割を受け持った。土地改良区が農家から負担金を徴収し、県を通じて国に納める。

 事業誌によると、事業は六五年ごろ、烏山町(現・那須烏山市)出身の農水省の技官が町長の橋本宏(故人)に持ち掛けて動きだした。橋本は「渡辺先生からも『骨を折る』という話があり、私たちも乗った」と回想しており、政・官主導の性格が強かった。

 反対の声もあった。改良区理事の青木寛茂(61)は「突然、町の職員が計画を知らせに来た。参加する気はなかったが、『村八分になるかも』と脅しめいたことを言われた」。結局、百四十アールの畑地整備に参加。約五百万円の負担金がかかったが、作物の価格低迷で、昨年は作付けを休んだ。「本来、出す必要のない金だった。押しつけ事業だ」

 改良区の調査で、造成した畑地四百三十五ヘクタールのうち六十ヘクタールが耕作放棄地。貯水池からポンプで水を送り、畑に散水する設備は割高で使われず、散水用のスプリンクラーは今も倉庫に眠っている。

 採算性の検討が不十分だったツケは農民に重くのしかかる。農家負担は利子を含めて約二十二億円。先月が納付期限だったが、二百人以上が滞納し、滞納額が一千万円を超える農家もある。改良区事務局長の薄井利男(62)は「合計の滞納額は約八千万円。県に猶予してもらうしかない」と頭を痛める。

 事業は計画より十二年も長引き、事業費は当初予定の四十六億円から四倍に膨れ上がった。土木業者の仕事は増え、改良区理事だった形山の集落も道路は広くなったが、造成した農地の後継者がいない。「何のための事業だったのか」。形山の心は晴れない。(敬称略)

<土地改良事業費> 農地や用排水路、農道、農村下水道などを整備する土地改良事業費は、1997年度の1兆2300億円をピークに年々減額。小泉政権による公共事業費削減で、2002年度に9200億円と1兆円を割り込んだ。その後も減額が続き、昨年度は前年度比14%減の5772億円。本年度は63%減の2129億円と、ピーク時の17%に落ち込んだ。

 

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