東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 特集・連載 > アーカイブ2013 > おそろし 謎めき 北関東の怪談・奇譚 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

【おそろし 謎めき 北関東の怪談・奇譚】

悲劇の身投げ…諸説今に 榛名湖(群馬県高崎市)

御沼〓神社から見える榛名富士。「晴れると山頂までくっきり見えますよ」と語る小林信彦さん=高崎市で

写真

◆大蛇になった姫を、カニになって守ろうとした

 昔、木部様というお殿様(高崎市木部町)のうちのお姫様が病気になって、榛名(はるな)さんに、願をかけたんですね。そして、お願がかなってお礼参りにかごに乗って行った。榛名湖のそばへ寄って、「お水で遊びたいから降ろしてくれ」と、お供に言ったんですって。それで沼のそばまで行ったらば、沼の中へずっと沈んでいったんですって。真ん中まで行って、お姫様は大蛇になって現れ、「私はこういう姿になったから帰ってくれ」って。

 お供の者は、お姫様がそんな姿に変わったままでは帰れないって、カニになって沼の周りの葉をはらって、お姫様を守ろうとしているんですって。だから、カニを食べると、榛名へは行けないと言い伝わるようになった。

 それから榛名さんの関係の人たちは五月五日に、器に赤飯を入れて榛名湖に流してやるんですって。

(「群馬県史 資料編27」より抜粋要約)

     ◇

 「子どものころはサワガニがいっぱいいて、網で捕まえられました」。最近、「パワースポット」として人気のある榛名神社がある榛名湖。その湖畔で飲食店「大蔵坊こばやし」を営む小林信彦さん(48)が話した。

 店の向かいの御沼〓(おかみ)神社の境内に、戦国時代に築かれたとされる箕輪(みのわ)城(高崎市箕郷町)の城主長野氏の妻で、榛名湖に身投げした長野姫と、その腰元の供養塔が二つある。蕨城(埼玉県蕨市)城主渋川氏が一五六七(永禄十)年に戦死したことを悲しんで身投げした妻龍体院の石碑も。

 地域では、他にも長者の娘だった藤波姫が身投げした説や、カニが落ち葉を一つ一つ裏返して姫を探している説など諸説伝わる。

 旧榛名町の町誌編さんに携わった清水喜臣(きおみ)さん(74)は、「カニの主人は変わっても話の筋は同じ」。古くは約三百七十年前の史料「伊香保記」までさかのぼる。

 伊香保記は九州にあった豊後国岡藩の姫が一六三九(寛永十六)年に、江戸から伊香保温泉へ湯治に出掛けた時の紀行文だ。その中に、沼(榛名湖)ではカニが神の召し使いとして水を清めていて、カニに触らないように歩かなければならない、とのくだりがある。

 「はるなといふ所こそ松島(宮城県)につぎての名所」との一節も。今も残る豊かな自然を眺め、姫やカニの不思議な物語の意味するところに思いを巡らせてみては。(伊藤弘喜)

写真

<メモ> 榛名湖へはバスでJR高崎駅から約90分、伊香保から約25分。榛名神社は約700メートルの参道沿いに清流が流れ、大木や巨岩が続く。榛名富士(1391メートル)はロープウエーもあるが歩いて約40分で登ることができる。榛名湖の北には榛名湖温泉もある。

※〓は雨の下に口三つ、その下に龍

 

この記事を印刷する