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【変わる知の拠点】

図書館は今(3) 新刊どう選ぶ

名古屋市の図書選択会議の光景。大量の本を図書館の職員が一冊ずつ目を通して選ぶ=名古屋市昭和区の市鶴舞中央図書館で

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 名古屋市昭和区の市鶴舞中央図書館の会議室で、昨年十二月十九日に開かれた図書選択会議。テーブルの上に、新刊書を柱のように積んだ山が数十本立つ。その周りを市内二十一館から派遣された職員が囲み、購入候補を一冊ずつチェックする。見終えると、山ごと隣に回し、九百冊近い本すべてに目を通していく。職員は司書資格を持ち、新刊情報や各館に寄せられたリクエストから購入する本をほぼ決めてから臨む。それでも終了までに三時間はかかる。この会議は年末年始などを除き、毎週開かれている。

 年間約七万八千点発行される新刊本から蔵書を選ぶ「選書」。最も重視されるのは「いかに利用者の要望に応えるか」。職員が実際に本を手に取る名古屋市の取り組みは、今も模範とされている。だが、八〇年代中ごろ、まったく異質の選書が登場した。図書館へ本の販売などを行う図書館流通センター(TRC)の「新刊急行ベル」だ。

 ベルはTRCが選書した新刊が毎週、自動的に送られてくるシステム。図書館は欲しい本を「日本文芸書A」(著者が人気作家)や「歴史と紀行」などのジャンルごとに契約することもできる。ベル全点なら年間二千二百九十五冊で四百十万円、「日本文芸書A」なら四百四十冊で六十七万円。すべて買い切りで、押し付け販売のようだが、図書館側の利点は何か。TRC社長の谷一文子(たにいちあやこ)さんは「図書館にとって最も大事なのは欲しい本を確実に蔵書に加えること。利用者が必ず求める本を事前に確保することが大切です」と語る。

 今は人気作家でも初版一万部刷ることはまれで、初版本はすぐ売り切れに。その時点で注文しても、図書館に届くには時間がかかる。一方、ベルでは新刊の発売二カ月前、TRCに委嘱された全国の図書館長ら二十六人の選書員に、出版社からの情報が届く。選書員はその情報を基に本を選ぶため、TRCは発売前に必要数を確保できるのだ。

 「図書館員なら誰でも選ぶ本がある。そんな本を最速で発売日と同時に届けます」と谷一さん。名古屋市だと、新刊が棚に並ぶのは発売一〜二週間後。「新刊本を早く読みたい」という要望ではベルが勝る。図書館の経費が削減され、人手も時間もかかる選書は採用しにくい今、“コンビニ選書”ベルを部分的に利用する公立図書館は、全国約三千館のうち約千館に上る。

自身が参加した選書ツアーで購入した本を前に語る野口光男さん=山梨県山中湖村の山中湖情報創造館で

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 一方、山梨県山中湖村の山中湖情報創造館は独特の「選書ツアー」を行っている。図書館の利用者に直接、書店などで蔵書を選んでもらう方法で、二〇〇〇年代、盛んに実施された。だが、「司書の専門性の放棄」などと批判されて下火になり、公立館で現在も続けているのはわずかだ。

 「“地域の人々と一緒に図書館をつくっていこう”が本館の設立趣旨。その事業の一つです」と館長の丸山高弘さん。二〇〇四年の開館以来、毎年夏に中学生、秋に大人を対象にツアーを実施。ツアーによる本の購入費は年間の資料費の二割近くを占める。

 だが、参加者は自分が読みたい本ばかりを購入するのでは−。昨年十月に行われたツアーに参加した野口光男さん(77)に尋ねると「そんなことはやりません」と笑った。

 野口さんは東京の会社を退職後、村に移住し、現在は村の自然インストラクター。若いころ、埼玉県立図書館で優秀読者として表彰されたこともあるほど本好きだが、ツアーでは「今の若者は文字ばかりの本では厳しい。読み始めると止まらなくなるやさしい本を選びました」と語る。

 今回は村民五人が参加し、東京の書店で朝十時から午後三時までかけ、計九百二十冊を選んだ。ここから館員がダブりなどをチェックし、計四百六十冊の購入を決定。新刊は『やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識』『「すみません」の国』など実に多様だ。

 野口さんは言う。「この年になり、自分の経験を後輩に伝えたいと思ってきた。ツアーで自分がいいと思った本が他の人の目に留まってくれれば、そのメッセージを伝えることができる」。人口五千人ほどの村ならではの取り組みだが、本を通じた地域づくりとして見るべき点は多い。

 選書は普段、利用者には見えない。だが、選書次第では自分の運命を変える本がある日、棚に並ぶかもしれない。身近な図書館がどんな選書を行っているか、知っていても損はない。(三沢典丈)

 

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