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【二月二十一日 ある死刑囚の記録】

(6)2人目の命奪う

恵喜は被害者の首にマイクコードを巻き付けた=写真はイメージ

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 日付が変わって一時間はすぎた。

 二〇〇二年三月十四日。ホワイトデーを迎えた名古屋・栄のスナック「パティオ」で、武藤恵喜(ぶとうけいき)は少し、焦り始めていた。

 売上金を盗もうとしても、ママ千葉春江(61)にすきがない。

 「たばこ、無くなっちゃったな」

 「たばこは置いてないのよ」。外へ買いに行くよう仕向けても軽くいなされ、春江は腰を上げない。

 「ちょっと、仲間を迎えに行ってくる」。逃げようかと表へ出たが、後をつけてきた春江に腕を絡めて引き戻された。

 春江はトイレに立ったときでさえ、ドアを半開きにしてこちらをうかがっているように感じる。

 夜は深まり、もう午前三時。懐のカネではここの支払いも、できない。また、刑務所には戻りたくない。いっそのこと…。

 恵喜は、隣に腰掛けていた春江の椅子に手を掛け、一気に後ろに引き倒した。

 「初めからおかしいと思ったんだ」。そう叫ぶ春江の口を押さえ、起き上がらせると、後ろから首に左腕を回して力を込めた。

 「ぐうっ」。春江の口からくぐもった声が漏れる。恵喜はカウンターの上にあったカラオケマイクをつかみ、その首にコードを巻き付けた…。

 後の裁判で明らかにされたところでは、その夜、恵喜はこうして人生で二人目となる命を奪った。

 当時、名古屋市立大で春江の司法解剖を担当した法医学者長尾正崇(まさたか)(52)は、恵喜がどうやって春江を絞殺したのか再現してみた。

 コードを二重に回し、簡単にほどけないよう首の後ろで、しっかり結んであった。春江の首の左側には自らの爪で引っかいたような傷が二つ。引きはがそうと、もがく春江を冷静に絞め続けたのだろう。

 「殺そうとして殺している。人の命を奪うことに迷いがない」。千体以上の解剖を手掛けてきた長尾の経験がそう告げた。

 恵喜は春江を殺害した後、グラスやカウンターの指紋を丁寧にぬぐった。暴行目的を装い、春江の衣服の一部を脱がしてもいる。

 そうして奪った売上金は八千円だった。

 事件が起きた午前三時ごろ、春江と同居する須藤正夫(仮名)が、帰りが遅いのを心配して春江の携帯や店へ電話している。だれも出ない。眠れぬまま迎えた朝、正夫は店へ駆けつけた。 (敬称略)

 

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