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【塩野七生さん 小出・本紙社長対談】

(2)資質 ずっこけた方が面白い

小出 フリードリッヒ二世は、日本でいうと信長だと思いました。異教徒を包含して、自由経済を起こした。信長も、堕落した僧侶が大嫌いで、キリスト教を面白いと入れた。楽市楽座は自由主義経済です。出世も実力主義で、日本最初の自由主義者。そういう意味で似ている。

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塩野 時代は信長のほうが三百年も後ですけれどね。有能でかつ忠実な人間をどれだけ配下に集められるか。それもリーダーの一つの条件ですね。己を知るもののために死す、というではないですか。やっぱり己を知ってもらった喜び以上の快はないと思う。あと、もう一つ。自分の能力はこれくらい、と思っていた時に、上の人からこれをやってみないかと言われて、やれたときの喜びもある。何かをやる場合に、苦労はしなくてはできないということはわかっている。でもその苦労は喜んでしたい。この種の喜びを与えるのがリーダーです。

小出 人の心に火を付けるのが本当のリーダーということでしょうね。

塩野 そのうえリーダーは、尊敬されたり、偉いと思われただけでは駄目な人ですね。「うちのボスはぬけてて、俺たちがしっかりしなくては」と思わせたときに、リーダーは完璧になる。これがないと画竜点睛を欠きます。

小出 イギリスでイートン校の取材をしたときに、生徒たちは最初からギリシャ語とラテン語をやって、原語で古典を読むというのがエリートの条件だと。次はジェントルマン。ジェントルマンとは優しい男ということ。優しいとは心が広いということです。強くないと優しくなれない。それで文武両道をやるんです。自分が死ぬときにいかに気が利いたジョークを言えるか、それが真のエリートだと言った教師がいた。苦しい時に冗談を言って集団をひっぱる。それがエリートだと。

塩野 イギリス人の面白いところは、灼熱(しゃくねつ)の砂漠でも、ティータイムが来ると、熱いティーをすする。現地人は、バカじゃないかと思いながら見ているけれど、汗をかきながらも守るという頑固さは尊敬していたんです。

小出 基本的な見方として、人間はもともと上等でないと思っている。そうするといい面が見えてくる。ずっこけたほうが面白い。プロ野球に王貞治と長嶋茂雄という二大英雄がいた。どっちがリーダーとして面白いかというと、僕は長嶋だと思う。彼は失敗しても許される男の愛嬌(あいきょう)がある。王さんは失敗が許されない求道者みたいなところがある。

塩野 女は愛嬌、男が度胸と言われてきたけれど、私の考えでは、男に度胸は当たり前。それでいて愛嬌も必要。逆に、いま能力を試されている女たちには度胸が必要です。

小出 今の女性には度胸があるじゃないですか。

塩野 女は愛嬌なんて亭主や恋人以外には忘れた方がいい。仕事をする時はとくにそうです。そして男には愛嬌。そうでないと全部イエスマンばっかりになってしまう。リーダーがあまりに優れていると、「ボスの言うことをやっていればいい」となる。ボスが時々ヘマをして「ちょっと、ちょっと」という感じがいい。そうしたら人間的なつながりもできる。結束もより固くなる。リーダーには部下たちに、彼らの存在理由を与える義務があるんです。そうしたら本物のリーダーになる。

小出 世界のリーダーといえば、私が学生のころ、一番人気はインドのネール。二番はユーゴのチトー。日本のリーダーは存在感がなかった。それから五十年くらいたつけれど、日本はインドやユーゴよりいい国になっていると思う。社員さえよければ、リーダーは無能でもいい?

塩野 それは賛成できません。トップのひと言が、空気を一変させる場合が多い。この種のケースで五本の指に入るだろうと思うネーミングは、池田勇人(はやと)(元首相)の「所得倍増」という言葉。マキャベリも言っていますが、知的階級とそうでない階級の違いは、抽象的な議論ができるかどうかにあると。だから民衆に訴えるには具体的な言葉で訴えるのが良策です。そうすると民衆は正しい判断を下す。所得倍増は、その例の傑作でした。

 鳩山由紀夫元首相は「友愛」を掲げた。でも日本の言う友愛なんて関係ないと思っている国はある。友愛は志を同じくする者同士の話なんです。われわれと中韓は志を同じくしていない。そういう時に友愛だけ叫んでいても効果は望めません。こちらは望んでいても、あちらは、こちらの望む形での友愛なんて望んでいないのですから。

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