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【わたしの春闘】

<座談会編>逆境の中小企業 自動車下請け現場の声

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 五月一日は世界の労働者が統一して権利要求するメーデーだ。政府は「同一労働同一賃金」を掲げ、今春闘でも企業間や、正規・非正規社員間の格差是正が焦点。大企業と、中小のベースアップ(ベア)格差は縮まる動きもあるが、本当に是正は進むのか。中小企業が加盟する「ものづくり産業労働組合(JAM)」傘下の自動車部品メーカーの社員や労組関係者五人が語り合った。各企業の取引先(大手)との関係に配慮、企業・個人名は匿名とした。 (渥美龍太、妹尾聡太)

 関東・部品メーカーAさん 今年は大手がベア水準を下げたから格差は一見、縮まった。だが、中小企業は利益が出ていない。中小が苦しいけど無理に賃上げしているのは、深刻な人手不足だからだよ。

 JAM本部・Bさん 大手は企業イメージで人を採れるけど、中小は金額の違いが採用にもろに影響してしまうからね。

 関東・Aさん 数年前に比べると円安なので大企業は過去最高益だが、部品メーカーは輸入する材料費がすごく上がった。なのに自動車メーカーは同じように部品の値下げを要請してくる。(大手の利益が波及する)トリクルダウンって全くない。ゼロだよ。 

 静岡県・部品メーカーCさん 本当だ。中小の賃金交渉では経営者が「取引先の大手のベアは超えられない」って言うんだ。

 九州・部品メーカーDさん ベアが取引先の大手メーカーを上回ったと知られれば「おたく賃上げ頑張ったね。それなら発注した部品の値下げも頑張って」と言われちゃうから。

 関東・Aさん 完成車メーカーから一万個の部品発注があって、その数を前提に単価が決まる。ところが、例えば後で二千個に減らされることがある。それでも単価は安いまま。下請けが「生産数が減ったのだから単価を上げて」と言っても、メーカーは聞く耳を持ってくれない。

 JAM本部・Bさん 政府が賃上げを政労使会議で要請するようになり、二年前には経済産業省の役人が裏で大企業に直接「賃上げしろ」と言ってきた。役所には逆らえないからと、社長の鶴の一声で賃上げしたとよく聞いた。しかし中小には及ばなかった。

 九州・Dさん 雇用が守れないからメーカーの要求は聞かざるを得ない。利益を出そうと作業の人数を減らせば、チェック不足で安全性にも影響しかねない。そこが非常に問題だ。

 静岡・Cさん 今は電機大手も外国企業に買収される時代だ。自動車業界もこのままでは、中小零細は消えていく。技術や品質が継承されなければ、日本は競争に負けてしまうよ。

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◆賃金あまりに違う

 関東・部品メーカーAさん 従業員百人ほどの企業であっても、系列メーカーが海外に進出すると、一緒について行って工場を建てている。そうしないと受注できないからだ。しかし会社の財布は一つしかないから、海外投資を行うと、組合員のボーナスが減らされてしまう。大企業は財布を別々にできるのかもしれないが。

 JAM本部・Bさん 同じオフィスで、設計作業をしていても完成車メーカーの担当者らは「今日はノー残業デーだから」と定時で帰っていき、下請けの技術者たちは徹夜で設計図を描く、そんな世界になってしまっている。だが、優越的な地位の乱用とも言えるこうした状況に、下請けの経営者も労組も声を上げにくい。私たちのように利害関係のない産業別労組が異議を申し立てていく必要があると思っている。

 愛知県・部品メーカーEさん 賃上げではトヨタ自動車の下請けのベアがトヨタを上回ったというけど、あれは例外。トヨタは役員を派遣する下請けなどに「上げられるだけ上げて」と直接指示したようだ。東海地方では「あそこの賃金がこんなに上がったの?」って、驚く例がいくつもあったし。

 関東・Aさん どういう交渉をしたか組合の人に聞いたら「何か知らないけど、会社が出してくれた」ってね。ただ、トヨタ以外では見当たらないよね。広がりがない。

 JAM本部・Bさん 労組の上部団体が格差是正の方針を掲げていたから、トヨタも下請けに賃上げ要請して、帳尻を合わせたのかな。

 静岡県・部品メーカーCさん 世間が、いつも賃金の上げ幅ばかり気にするのも問題。「自動車メーカーがベア千五百円だから、下請けが二千円上げれば格差が縮まる」なんてことより、大事なのは賃金の絶対水準があまりにかけ離れていること。賃金水準格差は拡大しつづけている。

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 九州・部品メーカーDさん (下請けへの締め付けが厳しい)今の取引慣行のままでは、金融緩和の恩恵で利益を出した大手の内部留保が増えるだけで、経済に好循環なんか生まれない。中小は銀行からお金を借りるし、賃金水準も安いので、賃上げができるようになれば消費に回るのにね。

 関東・Aさん 甘えるわけではないが、マイナス金利などより、中小企業への助成を拡充した方がいい。従業員と一緒に油にまみれて作業するような社長は、夕方になってやっと自分でパソコンの電源を入れる。そういうところは国の助成に詳しくないし、助成の申請書類を作る暇もない。もっと仕組みを簡素化するなど、中小企業が使いやすい制度をつくることが大事だろう。

<2016年春闘> 政府が労使に賃上げを促す「官製春闘」3年目。世界的経済減速を背景に基本給を底上げするベースアップ(ベア)率は昨年より全般に縮小。製造業労組でつくる金属労協によると、4月25日現在で従業員299人以下の中小企業のベアは平均1244円と、1000人以上の大企業の1276円との差は縮小。連合は「格差是正に一定の成果が出ている」と説明する。中小企業の春闘は夏ごろまで続く。

 

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