神奈川

<足元の課題>(1)横浜のカジノ構想

2016年5月28日

再開発が始まった山下ふ頭。カジノの誘致が取りざたされている=横浜市中区で

写真

 横浜市中区の山下ふ頭。五十年以上、横浜の物流拠点として使われてきたこの場所が、観光客を呼び込むリゾート空間に生まれ変わろうとしている。市は本年度から用地取得などの再開発事業に着手。リゾートの目玉として、カジノの誘致が取り沙汰されている。

 現状では賭博は競馬などの公営を除き違法で、地域を限定して誘致を認める「IR(統合型リゾート)推進法案」の成立が不可欠。このため市政策局は表向き、「山下ふ頭の再開発は、カジノを前提としているわけではない」と説明する。

 しかし、昨年二月に市が策定した「市都心臨海部再生マスタープラン」には、「世界中の人々を引きつける空間」として、カジノがイラスト付きで盛り込まれている。二〇一四年度からは、カジノ導入の可能性を探る調査も始め、経済効果四千百四十四億円、市税収入六十一億円増などとした試算も公表。林文子市長も「税収確保のための有力な手段」と述べ、カジノ建設に前向きな姿勢を示す。

 経済界は国の動きを期待して着々と準備を進める。カジノ誘致を目指して毎年、企業などを招いて勉強会や交流会を開く社団法人日本IR協会(東京)の中山彩子事務局長(31)は「人口減少が進む中、カジノは外貨獲得のために有効」と利点を強調。ギャンブル依存症など懸念される点は、「カジノを利用できる人を制限するなど事前に対策を講じればいい」とする。

 横浜商工会議所は、まだ誘致活動はしていないが、本年度からカジノの経済効果や依存症などの副作用を研究し始めた。京急電鉄は一四年、「訪日外国人を横浜に誘導する」「鉄道利用者や沿線の就業人口を増やす」と、カジノ参入に名乗りを上げた。ただ、広報担当者は「法案が通らないと表だって議論できず、担当チームは休眠状態」とも話し、法案の行方に注目する。

 市民団体からは反対の声が上がる。

写真

 「財政規模三兆円の横浜市が、六十一億円の税収のために大きなリスクを負うのはおかしい」。カジノ誘致反対横浜連絡会の菅野隆雄事務局長(65)は批判する。カジノができれば、窃盗やマネーロンダリング(資金洗浄)といった犯罪や、ギャンブル依存症患者が増えるとみる。

 菅野さんは「市の経済効果の試算にも無理がある」と指摘。「カジノやふ頭内のリゾート施設だけもうかり、市内経済に波及効果はない。むしろ客を取られて商店街は空洞化する。治安や依存症対策にかえって税金を投入することになるだけだ」と断じる。

 一方、「カジノで依存症が増えるかは分からない」との声もある。ギャンブル依存症の人を支援しているワンデーポート(瀬谷区)の中村努施設長(48)によると、競馬、競輪、パチンコなど、種類によって依存する人の特徴は異なり、「百人いれば百通りの依存症がある。それぞれの背景や思考など深いところまで踏み込み、本質的な議論をしないとカジノの依存症対策は語れない」と話す。

 市政策局も「メリットもデメリットも、試算は前提の置き方で変わる。造ってみないと実際のところは分からない」と認める。

 再開発は、早ければ来年度にも計画の公募・入札が実施される。「公募時点で法律が成立していなければ当然、カジノ抜きの開発になる」。公募のタイムリミットが迫り、「やるのかやらないのか、結論を早く出してほしい」と、法案の廃案や継続審議が続く国会の状況に不満も漏れている。 (志村彰太)

     ◇

 市井の人々の暮らしは、すべからく国の政治に影響され、影響を与える。政治に無関心でいられても、無関係ではいられない。国政をつかさどる代表を選ぶ大切な選挙を前に、見落とされがちな政策の課題を県内の現場から報告する。

<カジノを巡る国内の議論> 1999年、石原慎太郎都知事(当時)が「お台場カジノ構想」を提唱し、経済活性化の起爆剤として、禁止されているカジノの合法化に向けて、国会でも議論が活発化した。2002年、自民党がカジノ議連を結成。10年には、カジノを含む統合型リゾート(IR)の合法化を目指す超党派の「IR議連」に発展した。IR推進法案は14年の通常国会に初めて提出されたが、廃案、継続審議を繰り返し、実質的な審議はされていない。立地場所には、横浜市のほか大阪市や北海道、長崎県などが挙がっている。

主な政党の公約

新聞購読のご案内