神奈川

<足元の課題>(2)ヘイトスピーチ解消

2016年5月29日

「カウンターの人たちが、この横断歩道に寝そべって、向こう(左奥)から来るデモ隊が桜本に入るのを阻止してくれた」と振り返る崔江以子さん=川崎市で

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 「デモに抗議するカウンターの人たちが、冷たい道路に寝そべり、私たちの住む桜本にデモ隊が入るのを阻止してくれて。そのすぐそばで中学一年(当時)の息子が『助けてください、お願いです』と泣き叫んでいた」

 在日コリアン三世の崔江以子(チェカンイジャ)さん(42)は、こう語る。

 一月三十一日、川崎市川崎区で、ヘイトスピーチ(差別扇動表現)のデモがあった。「多文化共生 断固反対」などののぼりを掲げて「朝鮮人帰れ」「一匹残らずたたき出してやる」と叫び、在日コリアンはじめ、多くの外国籍や海外にルーツを持つ人々が暮らす桜本地区に向かった。デモに抗議する市民らも「差別やめろ」と声を上げ、現場は騒然となった。

 崔さんは、泣き叫ぶ息子の傍らで、ぼうぜんとした。日用品や食料品を買うスーパー、薬局、子どもたちの通う病院にも近い、日常生活の場での出来事に現実感が湧かなかったという。「あのとき、私の心は殺された」

 二カ月後、崔さんは参議院法務委員会の参考人席にいた。審議中のヘイトスピーチ対策法案について、委員らの質問に「白昼堂々と成人男性が、マイクを通じて死ね、殺せと迫ってくる。全てが脅威」と、自分の言葉で答え、法案の早期成立を訴えた。

 法案は今月二十四日に成立したが、憲法が保障する表現の自由に配慮し、禁止や罰則の規定は盛り込まれない理念法。しかし在日コリアンの差別問題に詳しい横浜法律事務所の三木恵美子弁護士は「ヘイトスピーチが許されないということを明確にうたったことに意義がある」と評価する。

 一方で同法は、保護の対象を「本邦の域外にある国または地域の出身」「適法に居住するもの」としており、人権擁護団体などは、日本の先住民族や難民申請者、在留資格がなく日本に滞在している人への差別は野放しになると危ぶむ。

 同法が定義する以外、「いかなる差別的言動であっても許されるとの理解は誤り」とする付帯決議も可決されたが、三木弁護士は「付帯決議はあまり活用されない傾向がある」と懸念する。

 崔さんも「社会には多様な人が暮らす。この人への差別はだめだけど、この人はいい、というお墨付きを国が与えてはいけない」と、対象の拡大を望む。

 先月末、ある参院選立候補予定者が街頭演説で、法案成立に向けて尽力すると言うのを聞き、涙が出そうになったという。「参政権がない、一票にもならない私たちのためにそこまで言ってくれるなんて」

 社会に希望を見た、という崔さん。法律施行はあくまでもスタート。より多くの苦しむ人たちが救われる方向に進むよう、声を上げ続けるつもりだ。(小形佳奈)

<ヘイトスピーチをめぐる国内状況> 2013年ごろから、東京・新大久保や大阪・鶴橋などコリアタウンで「在日韓国・朝鮮人を殺せ」といった差別扇動表現が繰り返されるデモが多発し、「ヘイトスピーチ」として報じられるようになった。同年10月、京都地裁が「ヘイトスピーチは人種差別撤廃条約が禁止している人種差別に該当する」としてデモの主催者らに賠償を命じた。14年8月には、国連人種差別撤廃委員会がヘイトスピーチを法律で規制するよう政府に勧告。今年1月には、ヘイトスピーチの抑止を目的とした大阪市の条例が市議会で成立した。

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