10代からの社会保障

<5つの現場>(5)年金 少子化で制度限界

2016年6月29日

水田の草刈りをする羽渕勇一さん。温石米の栽培は高齢者が支える=兵庫県養父市で

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 トンネルを抜けると、青々とした棚田が目に飛び込んできた。

 兵庫県北部の山あいにある養父(やぶ)市大屋町宮垣地区。同市シルバー人材センターが、耕作放棄地を所有者から借り、無農薬の「温石(おんじゃく)米」を栽培している。農作業はセンターに登録した地元の高齢者たちが担う。

 「『宮垣の山田(やまだ)(棚田)はきれいにしとる』と言われるのがうれしい」。草刈りをしていた羽渕勇一さん(67)は汗だくで笑った。

 清流で育てる温石米は、冷めてもうまいと評判だ。地元の道の駅などで販売され、リピーターもいる。

 シルバー人材センターは都道府県知事の指定を受け、市区町村単位で置かれた社団法人。掃除や駐車場管理など軽い仕事を家庭や会社から請け負い、会員登録した高齢者に提供する。

 独自ブランドで米を作る例は珍しい。養父市のセンターは五年ほど前から取り組み始め、現在、借りている農地は計二・七ヘクタールに広がった。

 同市は人口約二万五千人で、六十五歳以上の高齢者の割合が35%を超える。「大きな工場があるわけでもないので、自分たちで雇用をつくるしかない」。久保田文彦理事長(74)は米作りをする背景を説明する。

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 少子高齢化で年金制度を支える現役世代が減る中、支給開始年齢の引き上げも非現実的な話ではない。

 政府は、六月に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」に、「高齢者の就労促進」を盛り込んだ。「生涯現役社会の実現や人口減の中で成長力を確保するため、高齢者の就業率を高めることが重要」と訴え、シルバー人材センターの業務の拡大などを掲げる。

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 既に、主要国の中で日本の高齢者が働く割合は極めて高い。総務省の調査によると、昨年、高齢者の就業者数は七百三十万人。十二年連続の増加で、過去最多になった。就業率は21・7%に上り、2〜5%台のフランスやイタリア、ドイツと比べ段違いに高い。非正規が七割を占める。

 貧困問題に取り組むNPO法人「ほっとプラス」代表理事の藤田孝典さんは「生活が苦しく、安い賃金でも働かざるを得ない。引退を許さない社会になっている」と指摘する。生活保護を受けた高齢者世帯は今年三月、前年同月から5・1%増え、約八十三万世帯。生活保護世帯全体の半数を超えている。

 藤田さんは昨年末、元自営業で七十代の夫婦から相談を受けた。国民年金は二人で月八万円。夫の新聞配達の月収八万円と合わせても生活は苦しい。夫は「働けなくなったら一家心中だ」と不安をあらわにした。

 若い世代を含めて約四割を非正規雇用が占め、雇用が不安定になった現在、年金を支える保険料収入は国の予測を下回っている。

 藤田さんは「今の年金の仕組みで高齢者を支えていくのは不可能。生活に困った人のため、公営住宅を増やし、医療費・介護費を減免するなど、年金プラスアルファの社会保障を考えていくべきだ」と警鐘を鳴らす。 (北川成史)

  =おわり

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