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【1997年5月 渡良瀬有情】

初夏の輝き

撮影・文 堀内洋助


 渡良瀬遊水地の朝が早くなった。5月15日の日の出は午前4時36分で、薄明の始まりは2時57分だ。『早起きは三枚の徳』と思う。日の出前の1時間は風景写真に決定的瞬間を与えてくれる。前線が通過した翌朝が特に良い。夜明けの光に刻一刻と変化する空の色は、素晴らしいドラマである。

 薄明のアシ原に「カッコー、カッコー」とカッコウの大きな声が響き渡る。高原と見まごうばかりだが、ここは標高16メートルの大湿地帯。「ケン、ケン」と鋭く鳴き立てるキジ。「ギョギョシ、ギョギョシ」と少し濁った声のオオヨシキリ。夜の静寂を破り一斉に鳥の大合唱が始まる。生命の輝きを感じる。

 地平線から朝日が昇る。朱色の光線が新緑のアシを照らす。アシの葉先から水滴が一滴一滴と落ち、光輝いている。アシが水を浄化している光景なのだ。アシは窒素とリンを除去する。

 昨年から谷中湖の北80ヘクタールのアシ原を使って谷中湖の水質浄化工事が始まった。谷中湖の水を一日約3%アシ原へ導き、約一ケ月に一度谷中湖の水をアシ原に循環させて藻類を除去するというもの。そのため100億円を投資して給排水路、送水機場、排水機場を作る計画だ。しかし、豊かな自然が残る80ヘクタールのアシ原に給水管を碁盤の目に埋め込むことは、自然のアシ原が破壊される結果を招く。人間は、臭い水を作る谷中湖を建設し、自ら破壊した自然のアシ原を浄化地とし、再び自然破壊を繰り返そうとしている。

 それでも5月のアシ原は人間の愚かな行為を覆い包むかのように悠然と構えている。ヤナギとアシの新緑が素晴らしい。絶滅危急種のチョウジソウが、妖艶な淡青紫色の花を咲かせ、利根川流域の一部地域以外では絶滅寸前とされているタチスミレが白い可憐な花を付ける。栃木県立足利養護学校教諭の大和田真澄さん(46)は、レッドデータブックに示され保護対象になっている植物を28種確認した。「全国的に低湿地の開発が進み、貴重な植物が次々に姿を消している。遊水地は植物の収蔵庫の役割を果たしており、手付かずの自然を後世に伝える最後の砦ではないか」と大和田さんは話している。

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