東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 栃木 > 渡良瀬有情 > 1997年度 > 1997年6月

ここから本文

【1997年6月 渡良瀬有情】

森よ、よみがえれ

撮影・文 堀内洋助


 足尾の山は二つの顔を持っている。一つは松木川流域の荒涼たる岩山であり「日本のグランドキャニオン」と呼ばれる。公害の原点、足尾鉱毒事件の煙害で緑を失った山々である。もう一つは、庚申川流域の原生林に見られる緑豊かな山々である。精錬所からの亜硫酸ガスの煙が届かなかった地域だ。庚申川の銀山平から舟石林道で松木川方面に向かう時、舟石峠を越えると荒廃の山が現れる。梅雨に濡れる深緑の山との落差に心を痛める。

 作家の立松和平さんは「渡良瀬有情」(東京新聞出版局2000円)の中で「足尾の土を踏めば私にも多くの声が聞こえてくる。その声が私に文章を書かせている。東京新聞の写真部員の人たちも、渡良瀬川流域に何度も足を運ぶにつれ、その声を明瞭に聞くようになる。ファインダーを見る目が悲しみで澄んでくる。」と書いている。

 読者の方々も足尾砂防ダムの展望台を訪れてもらいたい。世界遺産に登録されてもふさわしい環境風景に心を動かされるはずだ。「最近外国からの訪問客が増えましてね。」と、大間々営林署の人は話し、英文でも標記されたパンフレット『足尾の治山』を作って案内している。昨年5月から足尾の歴史を紹介するインターネットのホームページ「足尾の森林ー破壊と回復の歴史ー」が開設されている。

URLはhttp://www.rs.bio.mie-u.ac.jp/asio/index.htm

 ところで去る4月20日、渡良瀬川流域の市民たちでつくる「足尾に緑を育てる会」(神山英昭事務局長)が、足尾町・松木沢上流で緑をよみがえらそうとヒメヤシャブシ・ミズナラ・ヤマハンノキなどの苗約1500本を植樹した。林野庁の提供で通称「さんかくやま」(標高1000メートル)の国有地に、昨年の4倍近い600人が集まった。シカの食害を避けるため苗木に白いヘキサチューブが巻かれた。対岸から一望すると荒廃地に林立するチューブが異様で、煙害で消滅した森の叫び声が聞こえてくるのを感じた。次回は7月21日(日)午前11時松木沢植樹現地集合で、苗木が育つように下草刈を行う。参加費は無料。昼食、水、軍手、カマは各自持参のこと。

 最後に嬉しい話題を。昨年に続き今年も足尾町で国の特別天然記念物・イヌワシの繁殖が確認された。生息調査した栃木県野生動物研究会(矢沢高史会長)によると、2月上旬に抱卵を始め、4月5日にヒナ1羽のふ化を確認。育雛期間は70〜90日で6月下旬ごろ巣立ち予定だ。

 食物連鎖の頂点に立つイヌワシの存在は豊かな自然の証といえる。煙害荒廃地に緑が徐徐によみがえりイヌワシの餌となるノウサギ、テン、ヤマドリ、ヘビ類などが増えたということだ。草原や低木疎林の上空を飛びながら餌を探すので、足尾の山は良い環境なのである。昨年の秋、紅葉を取材しに社山(標高1826メートル)に登った時、遥かかなたでイヌワシ2羽が並んで飛んでいたのを思い出す。足尾に緑がよみがえりつつある。

バックナンバー