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【1997年11月 渡良瀬有情】

川霧の朝

撮影・文 堀内洋助


 大湿地帯に川霧が立ち上がる。地平線が濃紺から赤、橙、黄色に変化し、川霧も色を染め替えていく。朱色の光線が走り、川霧が竜のように揺れ動く。壮大な自然のドラマが、いま繰り広げられている。

 栃木、群馬、茨城、埼玉の四県にまたがる渡良瀬遊水地は、川霧の朝を迎えた。川霧は季節の移り変わる早春(3月)と晩秋(10月中旬から11月下旬)の年2回、日の出前後に現れる。特にその規模は11月が雄大だ。

 川霧の発生する条件は、前日に気温が高く、早朝も快晴で放射冷却の冷え込みがあり、しかも、風がないこと。天気予報に一喜一憂する日々である。

 “朝の一枚”を求めて、川霧の朝は土手に三脚がずらりと並ぶ。ビューポイントは遊水地の最西端で渡良瀬カントリークラブと谷中湖の中間の土手上。晴れて風がないと連日見られるが、シャッターを押す手が震えるような川霧は月に数回。そのため川霧の朝は、ここから出勤する写真愛好家も多い。

 川霧を引き立てる脇役は、一面に広がるアシ・オギ・ススキの銀白色の穂と、タチヤナギ・カワヤナギ・旧谷中村屋敷林跡の木々である。アシ原の穂は夜明けの色と共に変化し、木々のシルエットは単調な風景をひき締める。 また水辺の岸から、立ち上ぼる川霧を見つめるのも良い。カモやサギ類が自然の情景を魅力的に演出してくれる。但し警戒心が強いので、下見をして暗いうちに撮影ポイントに入り、待ち続けることが必要である。

 最後に、足尾鉱毒事件の歴史をとどめる遊水地の川霧は、神秘的な光景として“辛酸の日々”を語り続けているように思う。今年は谷中村強制破壊から90年。川霧を見た後、谷中湖北側の谷中村遺跡を訪ねたらどうだろうか。

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