東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 栃木 > 渡良瀬有情 > 1998年度 > 1998年8月

ここから本文

【1998年8月 渡良瀬有情】

夏の匂い

撮影・文 堀内洋助


 湿地の風景は心を和らげてくれる。ストレスを感じた時、渡良瀬遊水地で夜明けを迎える。特に夏の朝は、心と体をリフレッシュするのに最適だ。

 8月中旬の薄明の始まりは、午前3時30分頃。アシ原は闇の中だが、東の天空は薄明りを帯びてくる。星が見えなくなる頃、野鳥の声が聞こえ始める。地平線が真っ赤に染まり、橙から黄へと刻々と色を変幻させる。水辺に映る空の姿がさらに感動的。5時00分頃、日の出。幽幻な太陽が顔を出す。 20日の夜明けの空に三日月と左右相称の有明の月が望める。午前4時には月と金星と火星の集合が見られるので、早起きして訪れたい。

 時々夏の川霧に遭遇することがある。前日に30数度を記録し、オホーツク海高気圧の南下で冷え込み、快晴で無風の朝だ。春と秋の川霧と違い、青々としたアシ原になびく霧は薄く、はかない風情を感じられる。

 立秋を過ぎて、秋の渡りのシギ・チドリ類が渡来を始めた。シベリアで繁殖を終え、東南アジアやオーストラリアに越冬に向かう途中に立ち寄るのだ。日本の湿地で採食と休息をして、南下していく。遊水地の谷中橋北側の通称“シギチ池”は、水量が増して渡来数が減少。今は、魚を捕るサギ類が群生している。周辺の休耕田にシギ・チドリは移動していった。

 最近各地で姿を見かけなくなったチョウトンボが、遊水地では見られる。青紫の羽を水辺の上でヒラヒラさせてチョウのように飛ぶ姿は優雅だ。

 遊水地の撮影を始めて、8度目の夏を迎えた。自然との出会いは、いつも一期一会。一瞬を喜び、悔しがる。反省の多い日々だが、自然と対話することが、至極幸福な時間なのだろう。

バックナンバー